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情シス部門向けにSaaSライセンス管理の基本定義やITAMとの違い、削減効果を高める実務フローを解説。Excel管理の限界から最新ツールの選定基準、退職者アカウントのセキュリティリスクまで網羅した、コストと安全性を両立する実践的なガイドです。

SaaSライセンス管理の基本:情シスが取り組むべき最適化ロードマップ
この記事でわかること
✓ 把握すべきSaaS管理の5大要素
✓ コストを適正化する削減アクションマトリクス
✓ 運用の限界を突破するツール移行の判断基準
SaaSライセンス管理とは、企業が契約・利用する多様なSaaSのアカウント、利用ステータス、コスト情報を一元的に把握し、最適化を図る一連の運用プロセスです。近年、社内で契約されるクラウドサービスが急増し、全体の把握が困難になるケースが増えています。ガバナンスが行き届かない状態では、無駄なコストが発生するだけでなく、重大なセキュリティリスクを招きかねません。
実際、SaaSライフサイクルの一元的な可視化を行わない組織は、2028年にかけてSaaS支出を少なくとも25%過剰に支払うことになると警告されています(参考:Gartner予測に関する解説記事)。情報システム部門が主導して管理体制を整備し、自社のシステム運用を最適な形へと導く実務アプローチを解説します。
SaaSライセンス管理とは?ITAM(IT資産管理)との明確な違い
ビジネスの現場における業務システムのクラウドシフトは勢いを増しており、多くの企業でSaaSライセンス管理が急務となっています。従来の社内サーバーへインストールするソフトウェアとは異なり、SaaSは導入の障壁が低く、各部門が独自に契約を進めやすい性質を持ちます。こうした背景から、従来のIT資産管理、いわゆるITAMのやり方では対応しきれない事態が生じています。
急増するSaaS利用と従来型管理の限界
企業の基幹システムや営業支援ツールにおけるクラウド化の進展は顕著です。矢野経済研究所が発表した法人アンケート調査によれば、CRMやSFAをSaaS形態で利用している企業の割合は、2016年の調査時と比較して39.6ポイントも急増しました。また、同調査では「新規導入・更新計画あり」とする企業において、財務・会計システムの次回導入でSaaSを予定している割合が25.6%に達することも示されています(2024年調査時点)。このように、企業の主たるシステムがクラウドへ移行した結果、管理すべき対象は物理的な機器から仮想的なアカウントへと移行しました。
かつてのITAMは、社内のPCやサーバーといったハードウェア、およびそこにインストールされたソフトウェアパッケージを静的に記録・保存する手法が中心でした。購入したライセンス数とPCの台数を紐づけ、年に数回の監査時などに棚卸しを行う運用で十分に機能していたのです。しかし、日々アカウントの追加や削除、アップグレードが発生するSaaSに対して、この手動棚卸しという静的な管理手法をそのまま適用することには限界があります。更新を怠ればすぐに現状との乖離が生じ、余分なコストや解約漏れの放置につながります。
静的管理から動的ライフサイクル管理への転換
SaaSライセンス管理と従来のITAMにおける最大の違いは、管理対象のライフサイクルが静的であるか動的であるかという点に集約されます。ハードウェアのように物理的な実体を持たないSaaSは、契約から利用開始、権限変更、そして退職に伴う削除までがすべてオンライン上で完結し、かつその変更スピードは非常に迅速です。
アカウント単位で利用料金が毎月変動するSaaS環境では、利用状況をリアルタイムで捕捉する動的なライフサイクル管理が必要です。誰がどのツールをどのような権限で使っているのかを常に追跡しなければ、ライセンスの余剰や、使われていないアカウントへの支払いといったコストの無駄を排除できません。こうした複雑な契約形態と柔軟な増減に対応するためには、これまでのITAMとは異なる、SaaS管理に特化した専用のフレームワークが必要となります。
Gartnerが予測するSaaS管理プラットフォーム(SMP)の普及
このような管理手法のパラダイムシフトに伴い、多くの組織が専用のシステム導入へ舵を切りつつあります。米Gartner社の予測によると、2025年時点でSaaS管理プラットフォーム(SMP)を用いてSaaSを一元管理している組織は30%未満に留まります。しかし、この割合は2028年までに70%以上にまで急拡大すると予測されています。これは、スプレッドシートや台帳による手作業の限界を企業が認識し、自動化された一元管理プラットフォームの整備を優先し始めていることの表れです。
SaaSライセンス管理は、単なるコスト削減のための作業ではなく、情報システム部門が直面するガバナンス構築の一環と言えます。管理の手を緩めれば、システム部門の把握していない野良SaaS、いわゆるシャドーITが横行し、セキュリティの脆弱性を招く要因になりかねません。
▲ 従来型ITAM(IT資産管理)とSaaSライセンス管理の違い
SaaSライセンス管理を構成する「5つのコア要素」
SaaSライセンス管理を構築する上でベースとなる「5つのコア要素」を確立することは、単に利用状況を把握するだけでなく、企業の財務健全性を保つために欠かせない取り組みです。
一元的なガバナンスが機能していない組織は、不要なライセンス費用を日々の運用の中で蓄積させている状態にあります。このような無駄な支出の蓄積を防ぎ、適切な投資構造を維持するために定義された5つのコア要素について解説します。
1. 可視化(シャドーITのあぶり出し)
SaaS管理の出発点は、組織内で実際に使われているすべてのサービスを見える化することです。情報システム部門の承認を得ずに現場の部門や個人が直接契約・利用している「シャドーIT」をあぶり出すアプローチが必要となります。
具体的な手法としては、社内ネットワークのプロキシやDNSのアクセスログ解析、経費精算システムからSaaSベンダーへの支払い履歴を照合する手法、シングルサインオン(SSO)連携の確認などが挙げられます。可視化を行わない場合、誰からも認知されていないサービスに毎月クレジットカード自動決済で料金が支払われ続けるという無駄な支出が蓄積します。
2. 台帳化(従業員マスターとの紐付け)
把握したSaaSの情報をデータベースとして整理し、アカウントの所有者を明確にする作業が台帳化です。ここでは、従業員マスターとアカウント情報を正確に紐付けることが最大の目的となります。
人事データベースに登録されている従業員の入社日、所属部署、雇用形態などの最新情報と、各SaaSに存在するアカウント情報を突合させます。台帳化が完成すると、どの従業員がどのSaaSにアクセスできるかが一覧で把握でき、権限過剰や退職者アカウントの放置を速やかに検知できる状態になります。
3. 棚卸し(利用実態の抽出と整理)
台帳化したアカウントが、実際に正しく活用されているかを定期的に精査するプロセスが棚卸しです。ここでは、長期間未ログインのアカウントや重複割り当てを抽出する手法を導入します。
各SaaSの管理者画面やAPI経由で「最終ログイン日時」を取得し、たとえば30日以上アクセスがないユーザーを自動的に特定します。また、同一の従業員に複数の個別ライセンスが割り当てられている状態や、チーム共通アカウントと個人アカウントが二重に付与されているケースを洗い出します。これを放置すると、実際には活用されていないライセンスに対して余分な維持費を支払うことになります。
4. 契約見直し(最適化とダウングレード)
棚卸しによって浮き彫りになった余剰ライセンスを、実際の利用状況に合わせて最適化するフェーズです。不要なライセンスの単なる解約にとどまらず、上位プランから適切な下位プランへのダウングレードや契約数の削減を推進します。
例えば、高度な分析機能が必要な一部の管理者層にのみ最上位プランを付与し、一般ユーザーは閲覧制限のみの安価なプランへ変更するなどのルールを設けます。また、年間契約の更新タイミングに合わせた契約数の削減も行います。実態に合わない高額なプラン設定のまま契約を更新し続けると、実質的に不要な機能に対して多額のコストを払い続けることになります。
5. 継続モニタリング(申請プロセスの統合)
一時的な削減で終わらせず、適正な状態を永続的に維持するための体制づくりが継続モニタリングです。これには、人事イベントと連動した入退社フローや新規SaaS申請プロセスの構築が求められます。
新入社員へのライセンス付与から退職時の迅速なアカウント削除までを自動化し、抜け漏れのない運用をルール化します。さらに、現場の部門が新しいSaaSを導入する際の承認ルートを一本化し、無秩序な導入を防ぎます。継続的な監視体制を整えることで、一度達成したコスト削減の効果を持続させ、情シス部門が次の戦略的課題へリソースを振り向けられるようになります。
日本企業におけるSaaS管理の現状と退職者アカウントに伴うセキュリティリスク
把握しきれないSaaSとアカウントの削除漏れがもたらすガバナンスの崩壊
多くの日本企業において、各部門や従業員が個別に契約して利用する「把握しきれていないSaaS」や、退職した従業員の「アカウント削除漏れ」が野放しになっている現状があります。便利なクラウドサービスを手軽に導入できる一方、情報システム部門の目が行き届かないシャドーITが増加し、退職者のアクセス権限がそのまま残ってしまうケースが後を絶ちません。これは単にライセンス費用を無駄に支払うというコスト面の問題にとどまらず、企業の存続を揺るがしかねない極めて重大なセキュリティリスク、ひいては法的・財務的リスクを内包しています。
退職者アカウント削除漏れ──実際に起きた不正アクセス事件
アカウントの削除漏れは、悪意を持った第三者や元従業員による不正アクセスを容易にするセキュリティホールとなります。実際に日本国内で発生した深刻な漏洩事件を見てみましょう。
アパレル大手の株式会社ユナイテッドアローズの事例では、同社の元従業員が退職後の2026年1月4日に私物PCからアクセスし、約1万人分の取引先リストをはじめとする個人情報データを不正にダウンロードして持ち出していたことが発覚しました。退職後もアカウントが有効なまま放置されていたために、社外からのアクセスを許してしまった典型例と言えます。
退職者によるアカウントの不正利用は、国内外で繰り返し報告されているセキュリティ上の脅威です。これらの事件は、企業側のアカウント管理体制の不備が招いた明白なセキュリティガバナンスの欠如を示しており、退職時に確実に権限を剥奪する仕組みがない限り、いつでも再現し得る脅威となり得ます。
設定ミスが引き起こす大規模な外部公開リスク
退職者アカウントの放置と並んで深刻なのが、クラウドのアクセス権限や共有設定のミスによる、意図しない外部への情報開示です。強固なセキュリティを誇るプラットフォームであっても、利用側の設定に不備があれば、蓄積されたデータは瞬時に危険に晒されます。
たとえば、株式会社エイチームが公表した事案では、クラウドストレージ「Google ドライブ」の共有設定ミスにより、2017年3月から2023年11月という長期にわたってファイル1,369件が外部公開状態になっていました。これにより、最大93万5,779人の個人情報が第三者から閲覧可能な状態に陥っています。
さらに、楽天グループにおけるSalesforceの権限不備では、アクセス権限設定のミスによって、最大148万件を超える顧客情報が、認証を必要としないまま第三者から閲覧できる状態にありました。
このように、アカウントや共有設定の管理を現場の裁量や曖昧な運用ルールに委ねてしまうと、組織全体での統制が利かなくなり、いつ情報漏洩事故が発生してもおかしくない状況を作り出してしまいます。ライセンスの無駄を省くだけでなく、企業の社会的信用や顧客からの信頼を守る「セキュリティガバナンス」の構築こそが、今まさに求められている状況です。では、こうした深刻なリスクを回避し、安全なSaaS運用を確立するためには、具体的にどのような手順で管理体制を最適化していけばよいのでしょうか。
主要SaaSの値上げトレンドと日本企業への財務的影響
外資系・国内主要SaaSの値上げと財務的圧力
近年の急激な為替変動や世界的な物価上昇を受け、外資系ベンダーをはじめ国内の主要なSaaS企業も、ライセンスの契約料金を相次いで引き上げています。これまで定額で低コストと考えられていたクラウドサービスが、毎年のように値上がりを続ける「値上げ時代」へと突入しました。月々の支払額が増加する状況下において、社内で使われていない休眠アカウントや、退職者が抱えたままの重複ライセンスを放置することは、企業の経営利益を直接的に減らす大きな要因になります。単なる事務的な管理不足にとどまらず、営業利益の押し下げを招く財務リスクとして認識を改め、迅速な見直しを進める必要があります。
拡大を続ける国内SaaS管理市場と可視化の必要性
このようなコスト増加圧力を背景に、企業が導入したサービスを中央で一元的にコントロールする市場が急速に活性化しています。ITRの最新調査結果によれば、2024年度の国内SaaS管理市場の売上規模は、前年度比58.8%増の27億円に達しました。さらにこの動きは一時的なものではなく、2025年度は前年度比46.3%増、2029年度には90億円規模にまで急成長すると予測されています(出典:ITR「ITR Market View:RPA/iPaaS/ワークフロー市場 2025」)。2024年度から2029年度までの年平均成長率は27.8%と推計されており、無駄なコストを感知して削減する仕組みづくりが、日本国内の多くの組織において緊急の課題となっている裏付けと言えます。
また、このトレンドは単一の管理領域にとどまらず、周辺システムを含めた周辺市場全体をも押し上げています。デロイト トーマツ ミック経済研究所の調査によると、広義の「SaaS for SaaS」(管理・運用・開発を含む総合的な市場)の市場規模は、2024年度に前年比135.9%の295.0億円を記録しました。翌2025年度には414.0億円へと拡大する見通しが示されており、運用全般をシステムで最適化しようとする機運が急激に高まっています(出典:デロイト トーマツ ミック経済研究所「SaaS for SaaS市場」)。
グローバルにおける見通しに目を向けると、Gartnerの予測では、2025年段階でSaaS管理プラットフォームを用いてアプリケーションの全容を可視化している組織は30%に届きません。しかし、この割合は2028年までに70%以上に達すると見込まれています。同調査機関は、もしSaaSのライフサイクルについて全体像の把握や調整を自ら行わない場合、2028年にかけてSaaSの支出を少なくとも25%過剰に支払うリスクを警告しています(出典:Gartner「SaaS管理プラットフォームに関する予測」)。単価が高騰し続ける中、契約状況を見える化するためのシステム投資を惜しむ姿勢は、長期的にはより重い不要コストの支払いへとつながってしまいます。
迫り来る財務負担の上昇を食い止め、無駄のない強固なガバナンス体制を敷くためには、情報システム部門が主導して具体的な削減施策へ踏み出すことが求められます。
工数と効果で比べる「削減アクションマトリクス」と削減実績事例
情シス部門が限られた人員と時間の中でSaaSライセンス管理によるコスト最適化を図るには、どのアクションから着手すべきか見極める必要があります。結論から述べると、最も少ない手間で最大の成果を得られるアプローチは不要アカウントの棚卸しです。ここでは実務の工数とコスト削減のインパクトという2つの軸から、代表的な4つの削減アクションを比較します。
削減アクション | 実務の工数 | 削減インパクト | 特徴 |
|---|---|---|---|
不要アカウントの棚卸し | 小(管理ツールの活用で極小化が可能) | 大 | 退職者や稼働していないアカウントを削除するため、即効性があります。 |
契約プランの変更 | 中 | 中〜大 | 上位プランから下位プランへの切り替えや、年契約・月契約の調整を行います。 |
商流の変更 | 中 | 中〜大 | 代理店を挟む形態に変えることで、ディスカウントや請求処理の集約を図ります。 |
価格交渉 | 大 | 小〜大 | ベンダーと直接交渉しますが、一定以上の規模や交渉力が必要となります。 |
このマトリクスが示す通り、価格交渉や商流変更は社内調整やベンダー交渉に多くの時間を取られる割に、一定のボリュームがなければ十分な割引を引き出せません。一方で、使用していないアカウントや重複しているライセンスを排除する棚卸しは、社内だけで完結する上に削減した分がそのまま浮くため、極めて効率の良い施策になります。
自社に存在するSaaSを可視化して実態を追うプロセスは一見すると骨が折れる作業に思えますが、SaaS管理ツールを取り入れることで、工数の壁は簡単に突破できます。実際にライセンスの整理を仕組み化し、劇的なコスト抑制を成し遂げた組織の事例を見てみましょう。
不要な重複を排除しライセンス数を半減させた事例
アフィリエイトサービスなどを展開する株式会社ファンコミュニケーションズは、自律型SaaS管理クラウドの導入によって大きな成果を収めました。同社では社内で2つの大きなグループウェアが重複して利用されている状況でした。そこで、片方のツールにおいて不要なライセンスの洗い出しを進めたところ、不要なライセンス数を50%削減(半減)することに成功しました。ツールの稼働状況を客観的に捉えることで、無駄になっていた費用を瞬時に見極めた好例です。
のべ6,600アカウントを束ねて巨額の費用を削った事例
グループ全体で大規模な最適化を進めたのが、大手旅行代理店の株式会社日本旅行です。同社は、散らばっていた情報を集約するためにSaaS管理プラットフォーム「ITboard」を導入しました。グループ全体でのべ6,600以上におよぶアカウントを厳密に管理する体制を整えました。この取り組みにより、最終的に実質2,000万円程度の管理費用削減効果を創出しています。管理が行き届きにくいグループ会社全体のライセンスを一元化したからこそ得られた成果といえます。
このように、実態の把握と不要なアカウントの削除は、想像以上の財務的メリットをもたらします。確実なステップを踏んで無駄を排除するために、まずは具体的な管理台帳の整備方法を学び、運用の土台を築きましょう。
SaaSライセンス管理の進め方:実務フローの4ステップ
SaaSライセンス管理を無理なく進めるためには、実務の各フェーズで発生するボトルネックをあらかじめ想定し、対策を組み込んでおく必要があります。社内全てのライセンスを可視化し、運用の負荷を抑えながら安全な状態をキープするための4ステップを解説します。
STEP1(現状把握):社内SaaSの全件洗い出し
最初のステップは、社内で利用されているすべてのSaaSを網羅することです。これを行うにあたり、情シス担当者が直面する最大の障害は、現場部門が独自に契約して利用している「シャドーIT」の存在です。この障害を乗り越えるためには、クレジットカードの決済履歴や経費精算などの財務データを突き合わせるアプローチが極めて有効です。さらに、ID管理を行うシングルサインオン(SSO)の連携ログを解析したり、ブラウザ拡張機能を社内PCに配備してアクセス状況を把握したりすることで、情シスが関知していなかったツールの全件をあぶり出します。
STEP2(台帳化):従業員情報とアカウントのマッチング
洗い出したSaaSアカウントを、人事情報である従業員データベースと紐づけていきます。ここでのボトルネックは、同姓同名の社員や、プライベートのアドレスで登録されたアカウント、退職者の古いアカウントなどが混在し、誰の所有物か判別できないデータが多数発生する点です。手作業でのマッチングはミスや漏れを引き起こすため、従業員マスタとアカウント一覧を一括で照合できる仕組みを導入すると、紐づけ作業の手間を大幅に減らせます。
STEP3(クレンジング):未利用・退職者アカウントの無効化
台帳化した情報をもとに、不要なライセンスを整理するクレンジングを実行します。実務におけるハードルは、「本当に使っていないか」の確認に時間がかかり、削除作業が後回しになることです。長期間ログインしていない未利用アカウントや、すでに籍がない退職者アカウントを抽出し、迅速に無効化・削除手続きを行います。これにより、余分なライセンス費用を削るだけでなく、元社員による情報漏えいといったセキュリティリスクを防げます。
STEP4(運用定着):アカウント回収プロセスの自動化とルール化
クレンジングした綺麗な状態を維持するため、日常の運用ルールを整備します。最大の課題は、入退社や異動のたびに手作業でアカウントの発行や削除を繰り返すことで、情シスの業務が圧迫される点です。新規アカウント発行の申請フローを整え、承認されたものだけを付与する仕組みを整えます。同時に、退職時のアカウント回収プロセスを自動化するルールを組み込み、人の手による作業漏れを根本から排除します。
他社における自動化・効率化の成功事例
手作業によるアカウント管理から脱却し、無理のない運用を可能にした企業の事例を紹介します。
建設資材のレンタルなどを行う日建レンタコム株式会社では、SaaSとITデバイスの統合管理クラウドおよびそのサポートサービスを導入しました。これにより、月48時間のノンコア業務時間を創出し、定常業務の30%を削減することに成功しています。
また、不動産ビジネスを展開する株式会社オープンハウスグループでは、退職者のアカウント削除作業を自動化しました。その結果、グループ全体で約7,000名におよぶ大規模なアカウント管理を、実質4名のコアメンバーのみで運用できる体制を構築しています。
こうした仕組みづくりや自動化を各ステップに取り入れることで、担当者の負担を増やさずに、確実なライセンスの最適化を維持できるようになります。
▲ SaaSライセンス管理を構築する4ステップ実務フロー
Excel台帳管理の限界とSaaS管理ツール導入の判断基準
多くの企業が初期段階で採用するスプレッドシートやExcelによる台帳管理ですが、これらは運用の規模が拡大するにつれて、維持が困難になりがちです。手動での入力や更新に依存する体制は、日々の多忙な業務の中で徐々に後回しとなり、台帳情報と実際の利用状況が乖離して「形骸化」を招きます。リアルタイムの更新が一度破綻すると、台帳の信頼性は失われ、結果として深刻なセキュリティ脅威に発展しかねません。
スプレッドシート管理が招くデータの形骸化と退職者リスク
手作業による台帳更新が破綻する最大の原因は、更新トリガーが人間の記憶や個別の連絡に委ねられている点にあります。アカウントの発行や削除が行われた際、管理台帳への記入漏れやデータの書き換えミスは防ぎきれません。このような管理の不備は、退職者のアカウント削除漏れという重大なセキュリティリスクに直結してしまいます。
実際に、以前の勤務先のクラウドサービスアカウントを退職後に悪用し、不正アクセスを繰り返した容疑で逮捕者が出る事案は国内でも複数報告されており、決して対岸の火事ではありません。
経営陣へSaaS管理ツールの導入を提案する際は、こうしたセキュリティインシデントが招く信用失墜や損害賠償といった有事のコストと、手作業による台帳管理の維持・監査対応にかかる見えない人件費を対比させる必要があります。「セキュリティ事故を未然に防ぐ予防的投資」としてコストメリットを試算する判断ロジックを示すことが、経営判断を促す上で役立ちます。
国内における主要SaaS管理ツールの進化と市場プレイヤー
台帳管理の限界を乗り越えるため、日本国内では複数のSaaS管理ツールが登場し、機能やサービス形態を進化させています。自社の状況に適した選択をするためにも、主要プレイヤーの変遷を把握しておくことは有益です。
マネーフォワードグループでは、2023年2月にそれまでの「IT管理クラウド」から「マネーフォワード Admina」へとブランド名が改められました。また、freeeグループが展開する「Bundle by freee」は、2025年12月に「freee IT管理」へと名称が変更されました。このサービスは、従業員情報とアカウントを紐付ける独自の「統合マスター機能」を特徴としています(詳細は、freee IT管理の機能に関するプレスリリースを参照ください)。
さらに、ラクスルの事業から誕生した「ジョーシス」は、2021年9月にサービスをローンチしたのち、2022年2月にスピンオフして会社を設立し、デバイス管理を巻き込んだ総合的なプラットフォームへと成長しています(歩みについては、ジョーシス株式会社 会社情報をご参照ください)。このほかにも、株式会社オロが2021年7月にSaaS管理サービスである「dxeco(デクセコ)」のα版をリリースするなど、市場では選択肢の拡充が続いています。
ツール導入を決定づける「3つの判断基準」
すべての組織がすぐに専用ツールを導入すべきとは限りません。手作業でのExcel管理を続けるか、それともツール導入へと踏み切るべきかを見極めるため、以下の3つの判断基準を参考にしてください。
判断基準項目 | 手作業(Excel等)が推奨される状況 | ツール導入(移行)を検討すべき状況 |
|---|---|---|
1. 利用SaaS数 | 5〜10種類未満で、全体の契約状況が容易に見渡せる範囲にとどまる場合。 | 10種類以上のSaaSが各部署で個別に契約され、シャドーITの把握が困難な場合。 |
2. アカウント総数 | 従業員数が少なく、全体のアカウント数が50個以下に収まっている場合。 | 従業員数や外部委託スタッフの増加により、管理すべきアカウント数が100個以上に達している場合。 |
3. 従業員の流動性 | 組織変更や入退社、異動が年に数回程度しか発生せず、臨時の作業工数が膨らまない場合。 | 毎月のように入退社や組織改編があり、手動でのアカウント削除作業に追われて遅延やミスが頻発する場合。 |
これらの基準のうち、いずれか1つでも「導入検討」の条件に合致するようであれば、手作業による運用の限界が近づいているサインです。無理に既存の台帳管理を維持しようとすれば、結果的に監査対応コストの肥大化や、不要ライセンスへの支払いによる無駄、最悪のケースでは深刻な情報漏洩リスクに晒されることになります。
▲ SaaS管理ツール導入の検討タイミング判断フロー
SaaSライセンス管理に関するよくある質問(FAQ)
Q:SaaS管理ツールは従業員が何名以上の規模で導入を検討すべきですか?
A:従業員数やSaaSの数に依存しますが、一人の担当者によるExcelの手作業での更新が遅れ始める50人から100人以上の規模、または一人あたり複数の有料アカウントを使い始める段階が目安です。この規模に達すると、管理漏れによる情報漏洩リスクや余分なコストが急増するため、自動化を視野に入れた運用の見直しが推奨されます。
Q:シャドーITの利用をどのように検出し防ぐべきですか?
A:ブラウザに拡張機能を導入する方法や、シングルサインオン(SSO)製品の連携ログの解析、さらには経費精算システムの決済データを定期的に監査することで、情シスの把握していないSaaSの支払いを網羅的に特定できます。検知した未承認のサービスに対しては、セキュリティ評価を実施した上で代替ツールへの移行を促す体制を整えましょう。
Q:ライセンスの棚卸しを定期的に行うべき最適なサイクルは?
A:組織変更や採用、退職が多く発生する四半期ごとの実施、または最低でも半年に1回は全社的なクレンジングを行う運用スケジュールを推奨します。定期的な棚卸し作業を年間の業務フローへあらかじめ組み込んでおくことで、使われていないアカウントの放置を防ぎ、コストの最適化を継続的に保てます。
まとめ
SaaSライセンス管理は、世界的なツール値上げが続く現代において大きなコスト削減機会であり、退職者アカウントなどからの不正アクセスを未然に防ぐ有効な防衛策です。ガバナンスの一元化や契約状況の可視化を怠ると、2028年にかけてSaaS支出を少なくとも25%過剰に支払うことになるという予測も存在します。
情報システム部門は、単にアカウントの登録や削除といった日々の申請業務を処理する作業者ではありません。セキュリティリスクを最小限に抑えつつIT投資の無駄を徹底的に排除することで、企業のビジネス成長を直接支える戦略的パートナーとしての役割を担っています。
企業の攻めと守りの基盤を固めるために、まずは足元の状況把握から始めてみてください。以下に示す最初のアクションチェックリストを参考に、今すぐできる実務から着手しましょう。
✅ 社内で使われているSaaSの総数をリストアップした
✅ 退職者アカウントの削除漏れがないか主要ツールを確認した
✅ 重複・未稼働ライセンスの有無を抽出した
✅ Excel管理での運用工数を計測した
✅ 自社に適したSaaS管理ツールのデモや情報収集を開始した
本記事の内容に誤り等がございましたら、こちらからご連絡ください。
監修
Admina Team
情シス業務に関するお役立ち情報をマネーフォワード Adminaが提供します。
SaaS・アカウント・デバイスの管理を自動化し、IT資産の可視化とセキュリティ統制を実現。
従業員の入退社対応や棚卸し作業の工数を削減し、情報システム部門の運用負荷を大幅に軽減します。
中小企業から大企業まで、情シス・管理部門・経営層のすべてに頼れるIT管理プラットフォームです。




