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最終更新日
2025/10/14
現代のビジネス環境において、サイバー攻撃はますます巧妙になり、組織にとって深刻な脅威となっています。自社の情報資産を保護するためには、防御策を講じるだけでなく、攻撃者の視点からシステムの弱点を発見し、対処する実践的な取り組みが求められます。それがペネトレーションテストです。
この記事では、ペネトレーションテストの基本的な考え方から、よく混同される脆弱性診断との明確な違い、具体的な実施方法、必要な資格やツール、そして費用相場まで、専門的な観点から分かりやすく解説します。
ペネトレーションテストとは
ペネトレーションテストは、セキュリティ専門家が攻撃者と同じ手法を使い、実際にコンピュータシステムやネットワークへの侵入を試みるセキュリティテストです。目的は、システムに存在する脆弱性が、実際に攻撃者によって悪用され、どの程度の被害につながるかを検証することにあります。
机上の空論ではなく、現実の攻撃シナリオを想定して侵入を試みることで、個々の脆弱性の危険度や、複数の弱点を組み合わせた攻撃による影響範囲を具体的に評価できます。英語では Penetration Test と表記され、しばしば Pentest(ペンテスト)と略されます。
ペネトレーションテストの目的
ペネトレーションテストの最大の目的は、システムやネットワークに潜むセキュリティ上の弱点を発見し、それが実際にどのような脅威につながるかを明らかにすることです。発見された侵入経路や脆弱性に関する情報を整理し、具体的な対策案を報告することで、組織はより効果的なセキュリティ強化策を講じられます。これにより、サイバー攻撃による情報漏洩やサービス停止といった事業リスクを減らし、システムの安全性を高い水準で維持できます。
ペネトレーションテストの3つの種類
ペネトレーションテストは、テスト対象に関する情報をテスターにどれだけ開示するかによって、主に3つの種類に分けられます。
ホワイトボックステスト
システムの内部構造やソースコード、設定情報などをすべて開示した状態で行うテストです。内部犯行や、すでに内部情報が漏えいした場合を想定したシナリオで、短期間で深い部分まで効率的に検証できます。ブラックボックステスト
IPアドレスやURLなど、最低限の情報のみを頼りに、外部の攻撃者とほぼ同じ条件で侵入を試みるテストです。外部から未知の攻撃者が仕掛けてくる脅威に対する耐性を、最も現実的に評価できます。グレーボックステスト
ホワイトボックスとブラックボックスの中間に位置し、システムの仕様やアカウント情報など、一部の情報を開示した状態で行います。一般的なユーザー権限を持つ人物による内部不正など、特定のシナリオに沿ったテストに適しています。
ペネトレーションテストと脆弱性診断の違い
ペネトレーションテストと脆弱性診断は、どちらもシステムのセキュリティを評価する手法ですが、その目的と手法に明確な違いがあります。
目的の違い
脆弱性診断の主な目的は、専用のツールなどを用いてシステムに存在する脆弱性を広く洗い出し、リスト化することにあります。検査範囲内の弱点を網羅的に発見することに重点が置かれます。
一方、ペネトレーションテストは、発見された脆弱性を利用して「実際にどこまで侵入できるか」「どのような情報が窃取されるか」を検証します。攻撃者の視点でシナリオを組み立て、ビジネスへの影響度を測る点が大きな違いです。
手法の違い
脆弱性診断は、主に自動化されたスキャンツールを使用して、既知の脆弱性パターンと照合する形で実施されます。そのため、短時間で広範囲を効率的に検査できます。
一方、ペネトレーションテストは、専門家の知見と経験を活かした手動による検査が中心です。ツールによる検知が難しい設定上の不備や、複数の脆弱性を組み合わせた高度な攻撃を試みるなど、より実践的で深いレベルでの検証を行います。
効果的な使い分け
システムの開発初期段階や定期的なセキュリティチェックで、潜在的な脆弱性を幅広く把握したい場合には脆弱性診断が適しています。
一方、重要なシステムや個人情報を取り扱うサービスにおいて、実際の攻撃に対する耐性を確かめ、事業への影響を具体的に評価したい場合にはペネトレーションテストが最適です。両者は対立するものではなく、目的に応じて組み合わせることで、より強固なセキュリティ体制を築けます。
ペネトレーションテストの具体的なやり方と流れ
ペネトレーションテストは、無計画に攻撃を仕掛けるのではなく、明確に定められた手順に沿って体系的に進められます。
1. 対象範囲とルールの策定
最初の段階では、テストの目的を明確にし、対象となるIPアドレスやアプリケーションの範囲を定めます。テスト中にシステムへ過度な負荷をかけないための時間帯や、テスト担当者が接触して良い情報、禁止事項などのルールを依頼者と詳細に協議し、書面で合意します。この計画段階での綿密なすり合わせが、安全で効果的なテストの実施を保証します。
2. 攻撃対象の事前調査
次に、攻撃対象に関する情報を収集します。公開されている情報(OSINT)からドメイン情報、利用されているシステムのバージョン、関連する従業員のメールアドレスなどを調査します。この段階で得られた情報を分析し、攻撃の足がかりとなる可能性のある脆弱な箇所を推測します。
3. 脆弱性を利用した攻撃
情報収集で得た情報をもとに、実際にシステムへの侵入を試みます。SQLインジェクションやクロスサイトスクリプティングといった脆弱性を利用したり、サーバーの設定不備を突いたりして、システムの内部へアクセスを試みます。さらに、管理者権限の奪取や他のサーバーへの侵入拡大など、事前に立てたシナリオに沿って攻撃を進め、最終的な目的に到達できるかを検証します。
4. 結果の分析と対策立案
テスト完了後、実施したすべての攻撃手法、発見された脆弱性、侵入の結果、そして想定されるビジネス上のリスクを詳細にまとめた報告書を作成します。報告書では、単に問題点を指摘するだけでなく、それぞれの脆弱性に対する具体的な改善策や優先順位を提示します。この報告を受けて、依頼者側は効果的なセキュリティ対策を計画し、実行に移すことになります。
ペネトレーションテストで使われる代表的なツール
ペネトレーションテストは専門家の手動による検査が主体ですが、効率と精度を高めるために様々な専門ツールが活用されます。
Metasploit Framework
Metasploitは、ペネトレーションテストの分野で最も広く知られているフレームワークの一つです。既知の脆弱性を悪用するための攻撃コード(エクスプロイトコード)が多数収録されており、テスターはこれを利用して効率的に侵入試行を行えます。単に攻撃を行うだけでなく、ターゲットの情報を収集したり、侵入後のペイロードを生成したりする機能も備えており、テストの多くの局面で中心的な役割を果たします。
Burp Suite
Burp Suiteは、企業のWebアプリケーションに対する脆弱性診断やセキュリティ評価を効率化する統合ソリューションです。ブラウザとサーバー間の通信を仲介(プロキシ)し、リクエストやレスポンスを傍受・改ざんすることで、手動での詳細な脆弱性検査を可能にします。SQLインジェクションやクロスサイトスクリプティングなどの脆弱性を発見するために、多くのテスターにとって不可欠なツールとなっています。
Nmap
Nmap(Network Mapper)は、ネットワーク上のホストやサービスを検出するためのオープンソースツールです。対象のサーバーでどのポートが開いているか、どのようなサービスが稼働しているか、OSは何かといった情報を高速にスキャンできます。ペネトレーションテストの初期段階である情報収集において、攻撃対象の全体像を把握するために広く利用されています。
ペネトレーションテストの費用相場と見積もりのポイント
ペネトレーションテストの実施を検討する際、費用は重要な検討事項です。
費用を決定する要因
費用を左右する主な要因は、対象範囲、期間、深度の3つです。テスト対象となるWebアプリケーションの画面数やサーバーの台数が多ければ、費用は高くなります。また、単純なテストを数日で終えるのか、長期にわたって様々なシナリオを試すのかといった期間の設定も価格に影響します。
費用の目安
費用はケースバイケースですが、小規模なWebアプリケーションを対象とした基本的なテストであれば数十万円から、大規模で複雑なシステム全体を対象とする高度なテストになると数千万円以上に及ぶこともあります。
業者選定で確認すべきこと
正確な費用を知るためには、複数の専門業者に見積もりを依頼することが大切です。その際は、以下の点を確認すると良いでしょう。
実績と経験:類似のシステムや業界でのテスト実績があるか
報告書の品質:どのような報告書が提供されるか、サンプルを確認する
技術者のスキル:どのような資格や経験を持つ技術者が担当するか
コミュニケーション:計画段階から報告まで、円滑な意思疎通が可能か
ペネトレーションテストの技術者に求められるスキル
質の高いペネトレーションテストには、テスターに高度な専門知識と技術力が要求されます。
技術力:多様なサイバー攻撃の手法はもちろん、ファイアウォールなどの防御技術への深い理解が求められます。
報告・伝達能力:発見した脆弱性の技術的な詳細と、それがビジネスに与えるリスクを経営層にも理解できるように説明するスキルが重要です。
代表的な国際資格:セキュリティ分野における実践的スキルを証明する国際資格としては、ハンズオン形式の試験を採用する OSCP(Offensive Security Certified Professional) や、倫理的ハッキングに関する理解を測る CEH(Certified Ethical Hacker) がよく知られています。
まとめ
ペネトレーションテストは、攻撃者の視点から自社のシステムを評価することで、理論上だけでは見つけられない現実的なセキュリティリスクを明らかにする強力な手法です。単に脆弱性をリストアップするだけでなく、それがビジネスにどのような影響を及ぼすかを具体的に評価できるため、対策の優先順位付けにも役立ちます。
巧妙化するサイバー攻撃に備えるためには、このような実践的なテストを計画的に行い、自社のセキュリティ体制を継続的に見直していく姿勢が不可欠です。
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監修
Admina Team
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