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最終更新日
2026/01/08
企業のIT活用が加速する現代において、ITガバナンスの重要性がますます高まっています。ITガバナンスとは、ITシステムを戦略的に活用し企業価値を最大化するための組織的な仕組みです。本記事では、ITガバナンスの定義から構成要素、実践的な強化手順、推進時の課題と対策まで、情報システム部門の担当者・責任者が知っておくべき知識を解説します。
ITガバナンスとは
ITガバナンスとは、取締役会などが主導してIT活用の方向性を定め、企業価値向上を実現するための組織的な統制の仕組みです。
経済産業省の「システム管理基準」(2023年版)では、ITガバナンスを「組織体のガバナンスの構成要素で、取締役会などがステークホルダーのニーズに基づき、組織体の価値及び組織体への信頼を向上させるために、ITシステムの利活用のあるべき姿を示すIT戦略と方針の策定及びその実現のための活動」と定義しています。
単なるシステム管理ではなく、ITを経営戦略と整合させながら活用し、その効果を最大化する包括的な取り組みです。IT投資の意思決定、リスク管理、業務プロセスの整備、成果測定といった幅広い活動が含まれます。
ITマネジメントとの違い
ITガバナンスとITマネジメントは役割が異なります。ITガバナンスが経営層による戦略的な方針決定と監視を担うのに対し、ITマネジメントはその方針に基づいた日常的な運用・管理を実行する役割です。両者は車の両輪のように連携し、企業のIT活用を成功に導きます。
なぜ今ITガバナンスが重要なのか
ITガバナンスが必要な理由は、IT投資の複雑化、サイバー攻撃の激化、および「シャドーIT」による統制の空白を解消し、企業の持続可能性を確保するためです。 ITが経営の成否を分ける今、統治の取れていないIT環境は、経営上の最大のリスクになりかねません。
DX推進とIT投資のブラックボックス化
デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展により、SaaS(Software as a Service)やクラウドの利用が全社に広がっています。経済産業省の「システム管理基準」でも指摘されているように、「自社で保有する情報システムだけでなく、広く外部のサービスを利用して事業を推進する組織体が多くを占める」状況となっています。各部署が独自にITツールを導入する中で、全社的な投資効率を判断し、重複投資やシステム間の分断を防ぐためのガバナンスが不可欠となっています。
セキュリティリスクとコンプライアンスへの対応
個人情報保護法の改正やサイバー攻撃の巧妙化により、万が一の情報漏洩は企業の社会的信用の失墜に直結します。適切なITガバナンスを確立することで、全社的なセキュリティポリシー(情報セキュリティ基本方針)を浸透させ、コンプライアンスを遵守したIT活用が可能になります。
ITガバナンスを構成する要素
ITガバナンスを実現するためには、一般的に以下の8つの要素を適切に整備することが重要とされています。
これらの要素は相互に関連しており、どれか一つが欠けてもITガバナンスは適切に機能しません。
戦略とシステムの整合性確保
経営戦略とITシステムの方向性が一致していなければ、投資効果は得られません。IT投資の意思決定時には、経営戦略との整合性を必ず検証し、経営層とIT部門が定期的に対話して事業目標へのIT貢献を明確にすることが重要です。
組織体制の確認と最適化
ITを適切に統制・活用できる組織体制の構築が必要です。CIO(最高情報責任者)やCISO(最高情報セキュリティ責任者)といった経営層レベルでのIT責任者の設置、IT部門内での役割と責任の明確化、各事業部門へのITリエゾン配置により、円滑な連携を実現できます。
業務内容の正確な把握
どの業務にどのようなシステムが必要かを判断するには、現状業務の詳細な理解が前提となります。業務フローの可視化、処理時間や頻度の測定、課題やボトルネックの特定を行うことで、システム化の優先順位や投資対効果を適切に判断できます。
コストの算出と費用対効果の評価
IT投資には初期費用だけでなく、運用・保守費用、ライセンス料など継続的なコストが発生します。TCO(総保有コスト)を正確に算出し、削減できる時間やコスト、創出される価値を定量化することで、適切な投資判断が可能になります。
運用体系の構築と維持
システムを安定的に長期運用するには、明確な運用体系の構築が不可欠です。日常的な監視・保守の手順、インシデント対応フロー、変更管理プロセスなどを文書化し、役割と責任を明確にします。ITIL(IT Infrastructure Library)やISO/IEC 20000といった国際標準フレームワークの活用も有効です。
ガイドラインの設定と遵守
ITシステムの適切な利用を促すため、情報セキュリティポリシー、システム利用規程、開発標準などの社内ルールやガイドラインの整備が必要です。従業員への周知徹底、定期的なセキュリティ教育、内部監査による遵守状況の確認を通じて、ガイドラインを組織文化として定着させます。
リスク管理とセキュリティ対策
ITシステムには、セキュリティリスク、運用リスク、法令違反リスクなど多様なリスクが存在します。想定されるリスクを洗い出し、発生確率と影響度を評価してリスクマップを作成し、回避・低減・移転・受容といった対応方針を決定します。多層防御の考え方で技術的・管理的・人的対策を組み合わせることが重要です。
システム調達方法の標準化
システムやサービスの調達プロセスを標準化することで、品質確保とコスト最適化を実現できます。要件定義、ベンダー選定基準、提案評価、契約交渉などの各段階で必要な手続きや評価基準を明確にし、属人的な判断を排除します。
ITガバナンス強化の実践ステップ
ITガバナンスを強化するには、現状評価から始めて段階的に改善を進める計画的なアプローチが有効です。
STEP1:現状評価
COBIT(Control Objectives for Information and related Technology)などのフレームワークを活用し、自社のITガバナンス成熟度を客観的に評価します。COBITでは、0(不在)から5(最適化)までの6段階の成熟度モデルで、ガバナンス体制、プロセス、リソース管理などの各領域を判定できます。
STEP2:優先課題の特定と改善計画
現状評価で明らかになった課題から、リスクの大きさ、緊急性、実現可能性、波及効果を考慮して優先順位を決定します。目標設定、実施内容、責任者、スケジュール、必要なリソースを明確にした改善計画を策定します。
STEP3:経営層との連携体制構築
定期的なステアリングコミッティ(運営委員会)を設置し、経営層、IT部門長、事業部門代表が参加してIT戦略の方向性、プロジェクト進捗、リスク状況を共有・議論する場を作ります。月次または四半期ごとの開催が一般的です。
STEP4:従業員のITリテラシー向上
全従業員を対象とした基礎的なIT・セキュリティ教育に加え、役割に応じた専門教育を実施します。外部セミナー、資格取得支援、eラーニングなど多様な学習機会を提供することで、継続的なスキル向上を促します。
STEP5:継続的な改善
定期的(年1回程度)にガバナンスの有効性を評価し、新たな課題や改善機会を特定します。PDCAサイクル(計画・実行・評価・改善)を組織文化として定着させることが、ITガバナンスの持続的な進化につながります。
ITガバナンスで企業価値を高める
ITガバナンスは制度を作ることがゴールではなく、組織文化として定着させ持続的に機能させることが真の目的です。トップのコミットメント、従業員の意識改革、継続的な教育と改善により、ITガバナンスが実効性を持って機能するよう取り組みましょう。
適切なITガバナンスは、企業のデジタル変革を支える基盤となり、競争力強化と持続的成長を実現する重要な経営資産となります。情報システム部門の担当者・責任者の皆様が、本記事で解説した知識を活用し、自社のITガバナンス強化に取り組まれることを期待しています。
まずは、現在の自社のITガバナンス状況を上記の要素に沿って点検してみてください。経営層への報告体制は整っているか、リスク管理の仕組みは明確か、システム調達のルールは文書化されているか。簡単なチェックリストを作成し、現状を可視化することから始めましょう。この小さな一歩が、ITガバナンス強化への確実な第一歩となります。
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監修
Admina Team
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