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リスクアセスメントはリスク特定・分析・評価から構成されるプロセスです。
職場の安全衛生・労務リスク管理では、事故が起きた後に原因を調べるだけでは不十分です。作業、設備、化学物質、作業環境にある危険源を事前に見つけ、被害の大きさと発生可能性から対策の優先順位を決めます。
本記事では、リスクアセスメントとは何かを簡単に整理したうえで、現場で使える評価シートの考え方、低減措置の順序、化学物質の制度動向までを扱います。安全衛生担当者が現場責任者と同じ判断基準を持ち、記録を継続的な改善に変えるための実務手順として活用してください。

リスクアセスメントとは
リスクアセスメントとは職場や事業活動に潜む危険源を特定し、リスクの大きさを評価する手法です。
本記事のポイント
リスクアセスメントは、危険源の特定・分析・評価を行うプロセスです。
リスクマネジメントは、評価結果を基に対策、監視、見直しまで管理する全体活動です。
安全衛生では、死亡・負傷・健康障害を防ぐために作業と職場環境を評価します。
化学物質では、対象物質を扱う事業者に法令上の対応が必要になります。
安全衛生における「リスク」は、危険性または有害性によって労働者が負傷・疾病などの危害を受けるおそれと、その重大さを組み合わせたものです。たとえば、床の油による転倒、機械の可動部への巻き込まれ、有機溶剤へのばく露は、いずれも評価対象になります。
一方、情報セキュリティのリスクアセスメントでは、情報資産の価値、脅威の発生可能性、脆弱性の3要素を評価指標とする考え方が広く参照されています。安全衛生と情報セキュリティは対象が異なるため、同じシートに混在させず、目的別に台帳を分けます。
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リスクマネジメントとヒヤリハットの違い
リスクアセスメントは評価の工程であり、リスクマネジメントとヒヤリハットは目的と使う場面が異なります。
用語を混同すると、報告が集まっても対策の優先順位が決まらない、あるいは評価だけして改善が止まる状態になりがちです。安全衛生担当者は、以下の役割分担で運用します。
用語 | 主な目的 | 扱う情報 | 実務上の位置付け |
|---|---|---|---|
リスクアセスメント | 危険源を評価し、対策の優先順位を決める | 作業、設備、物質、作業環境、既存対策 | 特定・見積もり・評価 |
リスクマネジメント | リスクを許容範囲まで管理する | 評価結果、対策計画、責任者、記録、監査 | 評価から改善・監視までの全体管理 |
ヒヤリハット | 事故寸前の出来事や気付きを収集する | 作業者の経験、未遂事象、不安全行動・状態 | 危険源を見つける重要な入力情報 |
ヒヤリハットは「起きた、または起きかけた事実」を集める活動です。これに対しリスクアセスメントは、未経験の危険も含めて被害と可能性を評価します。ヒヤリハットの報告があったら、個人の注意不足として終わらせず、同じ作業で再現する条件、保護具の使用状況、設備側で除去できる要因を評価表に反映します。
リスクアセスメントのプロセスは、リスク特定・リスク分析・リスク評価の3段階として整理されることが多く、JIS Q 27000などのマネジメント規格でも同様の構成が用いられています。職場では、この評価結果に低減措置、実施確認、再評価を加えることで、日常の安全衛生管理に接続できます。
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▲ リスクアセスメント・リスクマネジメント・ヒヤリハットの役割と関係性の違い
リスクアセスメントの目的と導入効果
リスクアセスメントの目的は、限られた人員と予算を、被害が大きく発生しやすい危険から順に配分することです。
現場の安全対策を「気を付ける」という抽象的な指示で済ませると、担当者や繁忙状況によって実施水準が変わります。危険源、被災の態様、既存対策、評価点、追加措置、責任者、期限を記録すると、対策の根拠を共有できます。
厚生労働省が実施している労働安全衛生調査(実態調査)では、事業場規模が小さいほどリスクアセスメントの実施率が低い傾向が示されています。実施率が低い職場では、最初から全作業を精緻に評価するより、災害が起きた作業、変更予定の作業、化学物質を扱う作業から台帳化すると運用を始めやすくなります。
導入効果は、事故件数だけで測りません。対策期限の完了率、同種ヒヤリハットの再発数、教育受講後の手順逸脱数を月次で追うと、対策が現場で機能しているか判断できます。安全衛生でも、評価と対策の点検・更新を一度きりにしない運用が実効性を左右します。
リスクアセスメントの5つの実施手順
リスクアセスメントは、危険の洗い出しから見直しまでを5段階で回すと、現場の行動と記録を結び付けられます。
危険性・有害性の特定
作業単位で、どこに、どのような危険源があるかを洗い出します。作業手順書、設備図面、SDS、巡視記録、災害記録、ヒヤリハットを確認し、「誰が、何により、どのような危害を受けるか」まで書きます。転倒なら「濡れた床」ではなく、「洗浄後の通路で作業者が滑って転倒し骨折する」と具体化します。
リスクの見積もり
危害の重大性と発生可能性を、既存対策を考慮して採点します。評価尺度は事業場で統一します。異なる部署が独自の基準を使うと、高リスク作業を横並びで比較できません。
リスク評価
見積もった点数を基に、許容できるか、追加対策をいつまでに実施するかを決めます。高い点数の作業は、設備停止や作業変更を含めて先に検討します。低リスクでも、化学物質の追加や作業変更があれば再評価の対象です。
低減措置の検討・実施
低減措置は、作業者の注意や保護具から考え始めません。本質的対策、工学的対策、管理的対策、保護具の順で検討します。危険物を安全な物質へ代替する、危険な工程を廃止する方法が本質的対策です。局所排気装置やガードの設置は工学的対策、立入禁止・手順書・教育は管理的対策、保護メガネや呼吸用保護具は最後の防御層です。
記録・見直し
実施日、評価者、根拠、対策責任者、期限、実施後の再評価を残します。新設備の導入、原材料や作業方法の変更、災害・ヒヤリハットの発生時には見直します。評価表を保管するだけでは低減措置の完了確認ができないため、期限超過の項目を月次会議で確認する運用にします。
▲ 現場と記録を結び付けるリスクアセスメントの5つの実施手順
リスク評価チェックシートの凡例
評価シートは、危険源と対策の判断根拠を一枚で追える形式にすると、現場確認と管理者承認を進めやすくなります。
次の凡例は、5段階の手順とは別に、重大性と可能性を数値化する例です。自社の災害類型や作業実態に合わせて定義を固定してから使います。
記入項目 | 記入例・判断基準 |
|---|---|
作業・場所 | 原料投入作業/混合作業室 |
危険源・想定災害 | 粉体の飛散による吸入ばく露 |
重大性 | 1:軽微、2:休業を伴わない負傷、3:休業・健康障害、4:重篤、5:死亡・重大な後遺障害 |
可能性 | 1:まれ、2:低い、3:時々、4:高い、5:頻繁 |
リスク値 | 重大性×可能性。例として15以上は直ちに追加措置、8~14は期限を定めて改善、7以下は管理継続とします。 |
既存・追加対策 | 局所排気装置の点検、投入方法変更、保護具選定 |
責任者・期限・再評価 | 担当部署、完了予定日、実施後の点数 |
数値だけで判断しない点が実務上の注意点です。死亡や重篤な健康障害につながり得る危険は、発生可能性を低く見積もっても、対策を後回しにしません。また、リスク値の閾値を他社の表からそのままコピーすると、作業頻度や被害想定と合わなくなります。最初の評価会議で基準の例を複数件すり合わせ、判定のばらつきを減らします。なお、この5段階マトリクスは一般的な危険源の優先順位付けを目的としており、化学物質のばく露評価には適しません。化学物質については、ばく露限界値(OEL)との比較やCREATE-SIMPLEによる定量的な評価が別途必要です。既存対策の効果を加味した「残留リスク」の評価も、マトリクスの点数だけでは判断できない場合があるため、評価結果に疑義が生じた際は産業医や化学物質管理専門家に相談する選択肢を持ちます。
化学物質管理における義務と支援ツール
化学物質を製造または取り扱う職場では、対象物質の確認とばく露を踏まえたリスクアセスメントを業務に組み込みます。
労働安全衛生法では、一定の危険性・有害性が確認されている化学物質について、事業者にリスクアセスメントが義務付けられています。一方、化学物質以外の一般的な危険性・有害性の調査は、原則として努力義務です。この違いを区別し、対象物質の使用有無とSDSを基点に管理台帳を更新します。
労働安全衛生総合研究所は、メールマガジン208号「化学物質管理コラム」jniosh.johas.go.jpで、2026年4月にリスクアセスメント対象物が約2,300種類となると案内しています。対象物質数は制度改正のたびに更新されるため、原材料を追加・変更する際は同研究所または厚生労働省の最新リストで該当物質を確認します。SDSの交付対象か、含有成分が対象物質に該当するかを確認し、該当すれば評価と低減措置の記録へ進みます。該当を確認できなければ、SDSの再取得と供給者への照会を先に行います。
厚生労働省は、ばく露限界値やGHS区分情報に基づいて化学物質のリスクアセスメントを行う支援ツールとしてCREATE-SIMPLEを提供していますanzeninfo.mhlw.go.jp。製造業の中小規模事業場を対象とした調査では、同ツールが化学物質の危険性に関するリスクアセスメントで広く活用されていることが報告されています。ツールの結果を転記して終えるのではなく、換気設備、取扱量、作業時間、保護具の実態と照合して措置を決めます。CREATE-SIMPLEはばく露をモデル式で推計するため、特殊な作業形態や高濃度ばく露が懸念される場面では、実測による個人ばく露評価が別途必要になる場合があります。その判断は、ツールの出力結果が「ばく露限界値を超えるおそれがある」と示した段階で、産業医または作業環境測定士に照会します。
住友ベークライト株式会社が約2,000件のSDSを一元管理しリスクアセスメントの業務時間を大幅に削減した事例は、SDS管理サービス「ケミカン」の導入事例として公開されています出典:chemican.com。多品種の原材料を扱う職場では、SDSの保管場所が部署ごとに分かれている状態を先に解消すると、評価漏れの抑制につながります。
▲ 原材料の変更・追加時における化学物質リスクアセスメントの実施判断フロー
実施時の失敗パターンと改善策
リスクアセスメントが機能しない主な原因は、評価を文書作成だけで終え、現場の変化と対策完了を追えていないことです。
注意喚起だけで済ませる失敗
「注意して作業する」「教育を徹底する」だけを対策欄に書くと、設備や工程に残った危険が解消されません。危険源を除去・代替できないか、ガード・換気・自動化などの工学的対策を先に検討し、それでも残るリスクに管理的対策と保護具を重ねます。
現場を参加させない失敗
安全衛生部門だけで評価すると、実際の段取り替え、清掃、復旧作業、繁忙時の例外運用が抜けやすくなります。作業者、現場責任者、設備保全、衛生管理者が同じ作業を確認し、ヒヤリハットと実作業の差を埋めます。労働安全衛生総合研究所は、化学物質の評価で困難を感じた事項として「十分な知識を持った人材がいなかった」が最も多いと報告しています。知識不足がある職場では、SDSの読み方や評価尺度の研修を先に実施し、外部専門家への相談範囲を化学物質や設備の高リスク項目に絞ります。
対策期限が未管理になる失敗
リスク一覧と改善計画を別ファイルにすると、誰がいつ完了させるか不明になりがちです。評価表に責任者・期限・完了証跡・再評価点を持たせ、未完了項目だけを定例会議で確認します。中日本ハイウェイ・メンテナンス中央株式会社は、施工管理アプリ「eYACHO」の導入事例として、危険予知活動シートの作成時間を約半分に短縮し、雪氷作業の事務作業を1シーズン当たり約50時間削減したと公表しています出典:metamoji.com。記録様式を標準化すると、報告のための作業を減らし、対策検討に時間を振り向けられます。
よくある質問
ここでは、本文で扱った内容を補う安全衛生・労務管理の実務上の疑問に答えます。
ヒヤリハットとリスクアセスメントの使い分け
ヒヤリハットは、事故にならなかった危険な出来事や気付きを集める活動です。リスクアセスメントでは、その報告を危険源特定の材料にし、重大性と可能性を評価して設備・手順・教育の対策へつなげます。
看護現場での活用範囲
看護現場のリスクアセスメントでは、転倒、感染、針刺し、移乗時の腰痛など、患者と職員の安全に関わる危険源を対象にします。個別の臨床判断ではなく、病棟の動線、物品配置、作業手順、勤務体制など、組織として低減できる要因を評価します。
労働安全衛生法における義務化対象
化学物質のうち、法令で定められたリスクアセスメント対象物を製造または取り扱う事業者には実施義務があります。2026年4月には対象物質が約2,300種類となるため、新規原材料の採用時はSDSを確認し、対象ならCREATE-SIMPLEなども用いて評価と措置を記録します。
まとめ
リスクアセスメントは、職場の危険源を特定し、重大性と発生可能性から優先順位を決め、低減措置と見直しまで進めるプロセスです。リスクマネジメントの一部として位置付け、ヒヤリハットは危険源を見つける情報として使います。
明日から始めるなら、直近のヒヤリハットまたは作業変更予定のある工程を一つ選び、「誰が、何により、どのような危害を受けるか」を記録してください。次に、既存対策を確認し、本質的対策から保護具までの順で追加措置を検討すると、評価表が実際の災害防止策になります。
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監修
Admina Team
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