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Admina Team
2025/08/12
クラウドサービスの代表格であるAWS(Amazon Web Services)は、利便性が高い一方で、「セキュリティは本当に大丈夫なのか?」という不安を抱えている方も多いのではないでしょうか。AWSは非常に堅牢なセキュリティ基盤を提供していますが、その恩恵を最大限に受けるためには、利用者側での適切な設定と運用が不可欠です。
この記事では、AWSのセキュリティの根幹をなす責任共有モデルの考え方から、今すぐ実践すべき具体的な対策、最新の脅威に対応する高度なサービスまで分かりやすく解説します。
AWSのセキュリティにおける責任共有モデルとは
AWSのセキュリティを理解する上で最も重要な概念が「責任共有モデル」です。これは、セキュリティの責任をAWSと利用者の間で明確に分担するという考え方です。簡単に言えば、「AWSが物理的なインフラや基盤サービスを守り、利用者はその上で動かすOSやデータ、アプリケーションを守る」という役割分担です。このモデルを正しく理解しないと、対策すべき範囲を見誤り、重大なセキュリティリスクを見逃す可能性があります。
AWSが責任を持つ範囲
AWSは、データセンターの物理的なセキュリティから、サーバー、ストレージ、ネットワークといったハードウェア、そしてAWSの各種サービスを動かすための基盤ソフトウェアまで、クラウド「そのもの」のセキュリティに責任を負います。例えば、データセンターへの不正侵入対策、ハードウェアの故障対応、ネットワークインフラの保護などが該当します。利用者はこれらの要素を一切気にすることなく、AWSが提供するセキュリティ基盤の上でサービスを構築できるのです。
ユーザーが責任を持つ範囲
一方、利用者はクラウド「内」で利用するもののセキュリティに責任を持ちます。具体的には、EC2インスタンス上のOSやミドルウェアの管理、セキュリティグループやネットワークACLによるアクセス制御、IAMユーザーやロールの適切な権限管理、そして保管するデータの暗号化やアプリケーションの脆弱性対策などが該当します。AWSがどれだけ堅牢でも、利用者が設定を誤ればセキュリティホールは生まれてしまうのです。
AWSのセキュリティ対策の全体像
AWSでは、Well-Architected Frameworkのセキュリティの柱として、対策すべき領域を体系的に示しています。ここでは、そのフレームワークをもとに、AWSのセキュリティ対策の全体像を7つの主要な領域に分けて解説します。
IDとアクセスの管理(IAM)
「誰が」「何に」「どのように」アクセスできるかを制御する、セキュリティの根幹です。AWSでは、Identity and Access Management(IAM) を使用して、ユーザーやサービスに対して最小権限の原則に基づいたアクセス許可を付与します。MFA(多要素認証)の強制や、パスワードポリシーの強化もIAMを活用することで実現でき、適切にIDを管理することで、不正アクセスや内部犯行を防ぐことが可能です。
検出的な統制(GuardDuty、Security Hub)
AWS環境内で発生する予期せぬアクティビティや潜在的な脅威を検知するための仕組みです。Amazon GuardDutyは、継続的に悪意のあるアクティビティや不正な挙動を監視し、脅威の早期検出を実現するサービスです。AWS Security Hubは、GuardDutyや他のサービスからのセキュリティアラートを集約し、セキュリティ状況をダッシュボードで一元的に可視化します。
インフラストラクチャの保護(VPC、WAF)
ネットワークレベルでの保護は、外部からの攻撃を防ぐための城壁の役割を果たします。Amazon Virtual Private Cloud(VPC) を用いて論理的に分離されたネットワーク空間を構築し、セキュリティグループやネットワークACLで厳密なトラフィック制御が可能です。また、AWS WAF(Web Application Firewall)を導入し、Webアプリケーションを標的としたSQLインジェクションやクロスサイトスクリプティングなどの攻撃をブロックします。
データ保護(KMS、暗号化)
保存中(at-rest)および転送中(in-transit)のデータを保護することは、情報漏洩を防ぐ上で極めて重要です。AWS Key Management Service(KMS) を利用して暗号化キーを安全に管理し、Amazon S3やEBS、RDSなどのストレージサービスでサーバーサイド暗号化を有効化します。また、TLS/SSLを利用して、通信経路を暗号化することも必須の対策です。
インシデントへの対応(Detective、Systems Manager)
セキュリティインシデントが発生した際に、迅速に調査し、影響を最小限に抑えるための準備とプロセスです。Amazon Detectiveは、GuardDutyなどで検出された脅威の根本原因を特定するための調査を自動化・効率化します。AWS Systems ManagerのIncident Manager機能を使えば、インシデント対応計画を事前に定義し、発生時に自動で担当者を呼び出すなどの対応を体系化できます。
脆弱性の管理(Inspector)
OSやソフトウェアに存在する脆弱性は、攻撃者にとって格好の侵入口となります。Amazon Inspectorは、EC2インスタンスやコンテナイメージに潜むソフトウェアの脆弱性や意図しないネットワーク露出を継続的にスキャンし、自動で検出します。Amazon Inspectorを活用することにより、パッチ適用の優先順位付けや、リスクの可視化が容易になります。
コンプライアンス(Artifact、Audit Manager)
自社のセキュリティポリシーや、業界・地域の規制(例: PCI DSS、GDPR、ISO 27001)への準拠を証明するための仕組みです。AWS Artifactでは、AWSの第三者監査レポートをオンデマンドで入手できます。また、AWS Audit Managerを利用すれば、自社のAWS利用状況が各種コンプライアンス要件に準拠しているかを継続的に評価し、監査証跡の収集を自動化できます。
まず始めるべきAWSのセキュリティ対策
AWSのセキュリティの全体像を理解したところで、次は何から手をつけるべきでしょうか。ここでは、AWSアカウントを作成したら、最初に取り組むべき最優先のセキュリティ対策を5つ紹介します。これらは比較的簡単に設定でき、費用対効果が非常に高いものばかりです。
1. IAMユーザーを作成し、ルートユーザーは使わない
AWSアカウント作成時に発行される「ルートユーザー」は、すべてのサービスに対して無制限のアクセス権を持つ最強の権限です。日常的な作業でルートユーザーを使用することは、誤操作や認証情報漏洩時のリスクが計り知れないため、絶対に避けるべきです。代わりに、日々の作業用に管理者権限を持つIAMユーザーを作成し、ルートユーザーは厳重に保管しましょう。
2. 多要素認証(MFA)を有効化する
パスワードだけの認証は、もはや安全とは言えません。多要素認証(MFA)は、パスワードに加えて、スマートフォンアプリなどで生成されるワンタイムコードを要求することで、不正ログインを劇的に防ぎます。特に、前述のルートユーザーと、強力な権限を持つIAMユーザーには、MFAの設定を「必須」と考えるべきです。これは、最も簡単かつ効果的なセキュリティ強化策の一つです。
3. AWS Security HubとAmazon GuardDutyを有効化する
AWS Security HubとAmazon GuardDutyは、数クリックで有効化できる非常に強力なセキュリティサービスです。GuardDutyは悪意のあるアクティビティを自動で検知し、Security HubはAWS環境全体のセキュリティ状況をベストプラクティスに照らして評価し、問題点を指摘します。これらを早期に有効化することで、潜在的なリスクをプロアクティブに発見し、対処することが可能になります。
4. S3バケットのパブリックアクセスをブロックする
Amazon S3の設定ミスによる情報漏洩は、過去に数多く報告されている典型的なインシデントです。意図しない情報公開を防ぐため、アカウントレベルで「S3パブリックアクセスブロック」を有効にすることが強く推奨されます。これにより、個別のバケット設定で誤ってパブリックアクセスを許可してしまうヒューマンエラーを防ぎ、データ保護のベースラインを確保できます。
5. 定期的なパスワードローテーションとアクセスキーの棚卸し
IAMユーザーのパスワードや、プログラムからのアクセスに使うアクセスキーは、定期的にローテーション(変更)することがベストプラクティスです。万が一、認証情報が漏洩した場合でも、その有効期間を短くすることでリスクを低減できます。また、使われなくなったIAMユーザーやアクセスキーが放置されていないか定期的に棚卸しを行い、不要なものは速やかに削除する仕組みが重要です。

AWSのセキュリティをさらに強化するサービス
基本的な対策を終えたら、次はより高度な脅威に対応するための応用的なサービス活用を検討しましょう。システムの特性やビジネスのリスクに応じてこれらのサービスを組み合わせることで、多層的な防御を実現し、セキュリティレベルを飛躍的に向上できます。
Amazon WAF & AWS ShieldによるDDoS・Web攻撃対策
WebサイトやWeb APIを公開している場合、AWS WAFとAWS Shieldの導入は不可欠です。AWS Shield Standardは全ユーザーに自動で適用され、一般的なネットワークレイヤーのDDoS攻撃から保護します。より高度で大規模な攻撃に対応するには、AWS Shield Advancedを検討します。さらにAWS WAFを組み合わせることで、SQLインジェクションやクロスサイトスクリプティングといったアプリケーションレイヤーの攻撃を検知・ブロック可能です。
Amazon Inspectorによる継続的な脆弱性管理
OSやミドルウェアの脆弱性を放置することは、攻撃者に侵入の足がかりを与えることになります。Amazon Inspectorは、EC2インスタンスやコンテナイメージを継続的にスキャンし、ソフトウェアの脆弱性(CVE)や意図しないネットワーク到達可能性を自動で発見可能です。発見された脆弱性はリスクスコアと共に一覧化されるため、パッチ適用の優先順位付けが容易になり、効率的な脆弱性管理を実現します。
AWS KMSによるデータ暗号化の徹底
保存するデータの暗号化は、情報漏洩時の最終防衛ラインです。AWS Key Management Service(KMS) を使用すると、暗号化キーの作成、管理、利用に関する操作を一元的に制御可能です。S3、EBS、RDSなど多くのAWSサービスと統合されており、チェックボックスをオンにするだけで簡単にデータの暗号化を有効化できます。誰がいつキーを使用したかの監査ログも取得できるため、コンプライアンス要件への対応にも役立ちます。
Amazon Security Lakeによるログの一元管理と分析
大規模な環境では、VPCフローログ、CloudTrailログ、GuardDutyの検出結果など、様々なソースから大量のセキュリティ関連ログが生成されます。Amazon Security Lakeは、これらのログを標準化された形式(OCSF)で一元的に集約し、分析や調査を容易にするデータレイクサービスです。Amazon Security Lakeを使用することで、複数のアカウントやリージョンにまたがる脅威の相関分析や、インシデント発生時の迅速な追跡調査が可能になります。
まとめ
AWSは世界最高水準のセキュリティを提供していますが、その上で安全な環境を維持するためには、利用者自身の主体的な取り組みが不可欠です。この記事で紹介した対策を確実に実施し、セキュリティの基礎を固めましょう。その上で、自社のシステム構成やリスクに応じて、WAFやInspectorといった応用サービスを組み合わせ、多層的な防御を構築していくことをおすすめします。

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