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企業の情報システム部門では、SaaSコスト削減を単なる契約数の削減にとどめず、利用料と運用工数を含む総所有コストの観点から見直す運用が取られることがあります。休眠ライセンス、部門ごとの重複契約、退職者アカウントの放置を解消することで、支出とセキュリティリスクをあわせて低減できるケースがあります。
一方で、安価なSaaSへ切り替えても、ID管理や問い合わせ対応が増えれば低コスト運用にはなりません。情シス担当者は、利用状況の可視化から解約・更新管理、ツール統合、導入ルールの定着までを一連の運用として設計します。本記事では、SaaSのコスト最適化方法とライセンス管理の実務を、判断基準とともに整理します。

SaaSコスト削減とは
SaaSコスト削減とは、契約中のクラウドサービス利用状況を可視化し、不要なアカウントの削除やプランの見直し、重複機能の整理を通じてIT支出を見直すことです。単にツール数を減らすのではなく、利用料と管理にかかる作業に見合う契約・利用状態へ整える取り組みです。
IT支出の最適化に向けた現状把握の重要性
SaaSコスト削減の第一歩は、現在どのツールにいくら支払っているかを把握することから始まります。
多くの企業では、情シスが把握していない「シャドーIT(部門や個人が独自に契約したSaaSや、IdP・SSOを経由せず管理台帳に載っていないアプリ)」が存在することがあります。これらを可視化すると、契約の重複や利用状況を見直す対象が見つかります。具体的には、ExcelやGoogleスプレッドシートを用いた台帳管理、または専用のSaaS管理ツールを用いる方法があります。
ツールライセンスの棚卸しによる直接的効果
定期的なライセンスの棚卸しでは、利用実態のない「休眠アカウント」や契約内容を把握し、支払いを継続する理由があるかを判定します。
退職者の削除漏れや、プロジェクト終了後も課金が継続しているアカウントは、見直し候補になります。利用部門への確認で継続利用の必要性が確認できなければ解約・権限変更の対象とし、必要性が確認できれば台帳に利用目的と見直し時期を記録します。この手順により、コスト面とアカウント管理面の両方を整理できます。
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なぜ今、SaaSコスト削減が求められているのか?
企業がSaaSコストを見直す背景には、契約料金や利用条件の変更、ツール乱立による「サイロ化」などがあります。
ランニングコストと契約条件の変化
SaaSの料金体系、契約期間、付帯機能はサービスごとに改定されることがあります。
これまでは少額だからと見過ごされていたツールも、全社単位で積み重なれば固定費になります。未使用のライセンスを放置すると、新規施策へ配分できる予算の余力が小さくなります。契約更新月、利用人数、月額・年額の支払額を台帳で並べると、優先して見直す対象を判断しやすくなります。
部署間での機能重複と「ツールのサイロ化」の解消
異なる部門で似たような機能を持つSaaSを個別に契約している場合、同じ目的に対する支払いが重なることがあります。
全社共通ツールへの統合では、契約窓口の集約やデータ連携の整理につながる場合があります。一方で、外部組織との互換性、保存データ、ユーザーの業務フローによっては一本化できません。対象ツールの利用目的と移行後に必要な機能を比較し、代替できれば統合し、代替できなければ重複理由を台帳に残す運用が適しています。
SaaSコスト削減を実現するための5ステップ
SaaSコスト削減を進める際は、現状の可視化から運用の定着化までを順序立てて実施します。
STEP 1:利用中のSaaSをすべて洗い出し可視化する
まずは、社内で利用されているすべてのSaaSをリストアップし、契約主体・利用人数・年間費用を明らかにします。
情シスが把握している公式ツールだけでなく、会計ソフトの振込履歴や法人カードの利用明細を照合すると、未登録の契約を発見できる場合があります。台帳には、サービス名、契約部門、契約責任者、利用人数、単価、契約更新日、解約期限、利用目的、データ管理上の留意点を記載します。これにより、削減候補と継続理由の全体像を把握できます。
STEP 2:アカウントごとの利用実態を調査する
各ツールの管理画面から、最終ログイン日や機能の使用頻度といったアクティビティログを抽出します。
休眠候補の判定期間は、組織の利用実態と業務サイクルに合わせて定めます。たとえば、毎月利用するツールと四半期・年次業務で利用するツールを同じ基準で扱わず、台帳の「利用頻度」と「次回利用予定日」を基に候補を抽出します。月次・四半期処理のみで使用するツール、緊急時対応用アカウント、SCIMやAPIで自動連携しているシステムアカウントは、ログイン頻度が低くても実運用上必要な場合があります。業務担当者または部門責任者への確認で利用目的が確認できれば継続管理とし、確認できなければ解約・ダウングレードの候補として扱います。
STEP 3:不要なライセンスの解約とプランの見直しを実行する
利用実態に基づき、休眠アカウントの削除や、上位プランから下位プランへの切り替えを行います。
特にProプランなどの上位版を契約しながら基本機能のみを使用している場合は、ベンダーの管理画面や料金ページで下位プランへの切替条件を確認します。ダウングレード後に利用できる機能、データ保持、権限設定への影響が確認できれば切替案を作成し、業務上必要な機能が不足する場合は現行プランを維持します。また、月払いから年払いへ変更した場合の条件もサービスごとに異なります。各サービスの料金ページまたは管理画面のサブスクリプション設定で適用条件を照合し、継続利用が確定しているツールだけを比較対象にします。
STEP 4:類似ツールの統合と契約の一本化を図る
社内で機能が重複しているカテゴリーのツール(例:チャットツール同士、ビデオ会議ツール同士など)を精査し、メインツールの候補を検討します。ただし、外部組織との互換性やユーザーの業務フローとの親和性によって一本化できない場合もあります。
統合の判断では、ライセンス費用だけでなく、データ移行、教育、既存連携の改修、問い合わせ対応にかかる作業を比較します。移行後も必要な機能と外部連携を維持できるなら統合計画へ進み、維持できない場合は契約を分けたまま更新時期をそろえる方法もあります。
STEP 5:新規導入のルールを構築する
コスト削減後のリバウンドを防ぐため、SaaS導入時の申請・承認フローを明確化します。承認者は情シス担当者とし、申請票には「利用目的」「利用予定者数」「類似ツールが既に社内にないか」「セキュリティ基準(シングルサインオン対応・データ保存地域・監査ログ出力など)を満たしているか」「契約期間・自動更新条件」を記載する項目を設けます。
削減効果の測定には、施策実施前後の月次ライセンス費用と情シス工数(棚卸し・問い合わせ対応・ID管理の時間)をそれぞれ記録し、年次で比較します。年間削減の概算を整理する際は、未使用ライセンス数×ライセンス単価、プランのダウングレードによる差額、移行・運用にかかるコストをそれぞれ別に算出し、合算することで試算の根拠を明確にしやすくなります。ただし、ライセンス単価は契約形態やボリューム条件によって異なるため、各サービスの管理画面または契約書で実際の単価を確認したうえで試算します。この記録を継続すると、どの施策を次の見直し対象にするかを判断できます。
▶ 関連記事: SaaS棚卸しの進め方と実践的ツール比較|費用削減の5ステップ
▲ SaaSコスト削減を成功させる5つのステップ
コスト削減効果を最大化する具体的なチェックポイント
実践において見落としがちなポイントを押さえると、追加の見直し対象を把握しやすくなります。削減額は、対象となる未使用ライセンス数、契約単価、プラン差額、移行や運用にかかる費用によって変わるため、自社の台帳と契約条件を用いて試算します。
退職者や休職者のアカウントが放置されていないか
退職後もアカウントが削除されずに課金が続いているケースは、支出とアカウント管理の両面で見直し対象になります。
SCIM(System for Cross-domain Identity Management)連携を利用している環境では、IdP(ID管理基盤)側の変更をSaaSアカウント管理に反映できる構成があります。ただし、無効化・削除の扱い、反映タイミング、対象属性はIdPと各SaaSの設定・実装によって異なります。IdPのプロビジョニング画面と各SaaSのSCIM設定で対象アプリ、停止時の動作、同期結果を確認し、退職・異動時に無効化まで反映されるなら自動処理に組み込み、反映されないサービスは退職手続きチェックリストで手動処理します。解約期限についても、各SaaSの利用規約または管理画面の「サブスクリプション」設定で自動更新条項と通知期限を把握し、期限内に停止できる契約だけを解約候補にします。
無料プランや代替ツールで対応できないか
特定の部署でしか使わないツールや、低頻度の業務であれば、無料版やオープンソースソフトウェアへの切り替えを検討します。
すべてのユーザーに高機能な有料版を割り当てる必要があるとは限りません。必要な機能、利用者数、サポート体制を整理すると、権限ごとのプラン分けや代替案を比較できます。無料版やオープンソースへ切り替える場合は、導入・運用・サポートにかかる工数と、データ保護や監査対応の条件を有料版と比較します。工数コストを加味しても有料版より総コストが下がる場合は切り替えを検討でき、工数が大きく増える場合は有料版の継続が合理的な選択肢になります。
複数年契約やボリュームディスカウントの活用
利用ユーザー数が多い主力ツールについては、契約更新前に利用実績と今後の利用人数を整理し、ベンダーとの契約条件を比較します。
長期契約や全社導入を条件とした契約では、価格や支払い条件を調整できる場合があります。実際の割引率、最低利用数、中途解約時の扱いはベンダーごとに異なります。各社の営業担当または契約ページで条件を確認し、利用人数が契約期間中も維持できる見通しなら複数年契約を比較し、見通しが立たない場合は契約期間を短く保つ判断につなげます。
▶ 関連記事: アカウント管理とは?情シスの工数削減とセキュリティ強化手法
▲ 不要アカウント・ライセンスを見極める削減判定フロー
SaaS管理ツール導入による効率化
手動での管理に限界を感じる場合は、SaaS管理ツール(SMP)の導入が選択肢となります。本記事でいうSMPは、SaaSの契約・アカウント・利用状況の管理を支援する製品群を指します。SaaS Management Tool、SSPM、CASBなど近接する領域では対象機能が異なるため、導入時は名称ではなく連携範囲と管理対象を比較します。
管理方法 | メリット | デメリット | 適している企業 |
|---|---|---|---|
Excel/スプレッドシート | 導入コストがゼロ。自由度が高い。 | 更新が属人化しやすく、リアルタイム性に欠ける。 | SaaS導入数が比較的少なく、管理の複雑性が低い企業(導入数や従業員規模、契約の複雑さによって適否は異なります) |
SaaS管理ツール(SMP) | IdP連携、利用ログ連携、支払情報の集約などを利用できる製品がある。製品によっては、連携データを基に未登録のSaaS利用を把握する機能を持つ(対応範囲は連携方式・CASB/SSPM機能の有無により異なる)。 | ツール自体の導入コスト(月額費用)が発生する。検知精度は連携設定の範囲に依存する。 | 契約・アカウント・利用状況の更新を手作業で追い切れず、連携可能なデータを集約して管理したい企業 |
SMP導入による工数削減と投資対効果
SMPでは、台帳更新や利用状況調査の一部を連携データで補える場合があります。
導入判断では、月額費用だけでなく、台帳更新、利用状況確認、退職・異動時のアカウント処理に使っている時間を記録します。対象SaaSが連携でき、取得したデータを棚卸し手順に利用できるなら、削減見込額に工数の変化を加えて比較します。必要な連携やログを取得できない場合は、台帳運用の改善や対象を限定した検証を先に行います。
▶ 関連記事: SMP(SaaS管理)とは?機能やIDaaSとの違い・事例を解説
▲ Excel手動管理とSaaS管理ツール(SMP)の特徴比較
SaaS運用の最適化で持続的な成長を
SaaSコスト削減は、一度の解約作業で完了するものではなく、契約更新、利用状況、組織変更に合わせて見直す運用です。棚卸し台帳を更新し、更新月の前に利用部門と継続理由を確認する流れを定着させると、支出の増減を把握しやすくなります。
IT部門は、契約情報、アカウント情報、導入申請の記録を結び付けることで、個別の削減だけでなく管理の抜け漏れを減らせます。部門ごとの利用目的を記録しておけば、重複して見えるツールでも統合できない事情を判断材料として残せます。
着手時は、会社のクレジットカード明細や経費精算システムから「SaaS」と思われる決済項目を抽出し、サービス名、支払額、契約部門、更新日が分かるリストを作成します。
リスト作成後は、支払額が大きいもの、更新日が近いもの、利用目的が未記入のものから順に確認します。利用部門で継続理由が確認できれば契約管理を継続し、確認できなければ利用ログ・契約条件を確認して解約、権限変更、統合のいずれかを検討します。
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まとめ
SaaSコスト削減では、最初に契約・支払い・利用者情報を一つの台帳に集約し、契約更新日と利用目的を記録します。次に、休眠アカウント、過剰な権限、重複機能、未登録の契約を利用部門と照合します。
削減額は、未使用ライセンス数と単価、プラン差額に、移行・運用コストを加味して試算します。単価だけで判断せず、データ移行、外部連携、サポート、監査対応への影響も比較対象に含めます。
解約・ダウングレードの可否は、各サービスの管理画面、料金ページ、利用規約にある機能制限、自動更新条項、解約期限で判断します。必要な機能を維持できれば変更へ進み、維持できなければ現行契約を継続して次回更新時に再評価します。
管理対象が増え、台帳更新や利用状況確認を手作業で追い切れない場合は、連携できるデータと運用手順を比較したうえでSaaS管理ツールの活用を検討します。
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監修
Admina Team
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