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最終更新日
2025/12/08
スマートフォンやPCの紛失・盗難時に、遠隔操作で内部データを消去し情報漏洩を防ぐリモートワイプは、現代のビジネスシーンに不可欠なセキュリティ機能です。
本記事では、リモートワイプの意味から、個人でも利用できるOS標準機能での実行手順、そしてMDMを使った高度な管理方法まで解説します。
リモートワイプ(遠隔消去)とは
リモートワイプとは、インターネット経由でスマートフォン、タブレット、PCなどのデバイスに命令を送り、内部に保存されているデータを遠隔から消去(ワイプ)するセキュリティ技術です。リモートワイプは、デバイスを物理的に紛失したり盗難に遭ったりした際に、第三者による不正なデータ閲覧や情報漏洩を防ぐための最終防衛策として機能します。
具体的には、デバイスのデータを工場出荷時の状態に戻す(初期化する)ことで、内部の機密情報を保護します。単にファイルをゴミ箱に入れる操作とは異なり、デバイス全体を初期化したり(フルワイプ)、特定の業務用データのみを選択して削除したり(セレクティブワイプ)することが可能です。ワイプの実施により、従業員や顧客の情報、ならびに企業の重要データが第三者に漏洩する危険性を極力低減させることが可能です。
リモートワイプが重要な理由
リモートワイプの重要性が高まっている最大の理由は、テレワークやハイブリッドワークといった働き方の多様化に伴い、業務用デバイスを社外で利用する機会が急増したためです。
働き方の多様化による紛失・盗難リスクの増大
リモートワイプの重要性が高まっている最大の理由は、テレワークやハイブリッドワークといった働き方の多様化です。
オフィス外に業務用デバイスを持ち出す機会が急増したことで、カフェや移動中の電車内などでの置き忘れ、あるいは盗難に遭うリスクが格段に高まりました。デバイス内には顧客情報や業務資料など、企業の存続に関わる重要なデータが保存されているため、紛失は即座に重大な情報漏洩インシデントに繋がりかねません。
万が一、悪意のある第三者の手にデバイスが渡った場合、パスワードが突破されれば内部データはすべて閲覧可能になってしまいます。リモートワイプは、こうした最悪の事態を回避するための、現実的かつ効果的な防衛策なのです。
退職者のデバイス管理やシャドーIT対策にも有効
リモートワイプは、紛失時だけでなく、従業員の退職時や、管理外のデバイス利用(シャドーIT)への対策としても有効です。
退職者が業務用デバイスを返却する際、内部に機密情報が残存していると情報漏洩のリスクとなります。また、企業が許可していない私物デバイスやクラウドサービスが業務に利用される「シャドーIT」は、管理者の目が届かないため、情報漏洩の温床となります。
MDMと組み合わせることで、退職者のデバイスから遠隔で確実に業務データを消去できます。さらに、MDMを導入して許可されたデバイスのみが社内情報にアクセスできる仕組みを構築すれば、管理外デバイスの利用を抑制し、シャドーITのリスクを低減させることが可能です。
リモートワイプの種類
リモートワイプには、デバイスの全データを消去する「フルワイプ」と、特定のデータのみを消去する「セレクティブワイプ」の2種類があります。
フルワイプ
フルワイプとは、デバイスに保存されている全てのデータ、設定、アプリケーションを消去し、工場出荷時の状態に戻すことです。「ファクトリーリセット」とも呼ばれ、最も確実な情報漏洩対策です。デバイスを完全に初期化するため、第三者がデータを復元することは極めて困難になります。主に、会社が所有・貸与するデバイスの紛失・盗難時や、デバイスの廃棄・譲渡時に利用されます。
セレクティブワイプ
セレクティブワイプとは、デバイス内から特定のデータやアプリケーションのみを選択して削除することです。「部分ワイプ」や「選択的ワイプ」とも呼ばれ、個人のプライバシーを保護しながら企業データのみを安全に削除できる点がメリットです。
セレクティブワイプは、従業員の私物デバイスを業務に利用するBYOD(Bring Your Own Device)環境において、セキュリティとプライバシーを両立させるために重要です。従業員の私物デバイスを会社の都合で完全に初期化(フルワイプ)することは、プライバシー侵害にあたる可能性があるためです。セレクティブワイプは主にMDMツールによって実現され、デバイス内に作られた業務領域内のデータのみを遠隔で削除します。
リモートワイプを実行する方法
リモートワイプを実行するには、主に「OSの標準機能」を使う方法と、「MDMツール」を使う方法の2つがあります。
OS標準機能を使った方法(個人・小規模向け)
本項では、個人でも利用可能なOS標準機能を使った手順を解説します。
iPhone/iPad/Macの場合
Apple製品では、「探す」(Find My)機能を利用してリモートワイプ(フルワイプ)を実行できます。
事前設定:デバイスの「設定」アプリでApple IDを選択し、「探す」→「iPhoneを探す」(またはiPad/Macを探す)がオンになっていることを確認します。
実行手順:他のAppleデバイスの「探す」アプリ、またはPCのブラウザから icloud.com/find にアクセスします。対象のデバイスを選択し、「このデバイスを消去」を選び、画面の指示に従うことで遠隔での初期化が完了します。
Androidの場合
Androidデバイスでは、Googleの「デバイスを探す」(Find My Device)機能を使用してデータを遠隔削除します。
事前設定:デバイスの「設定」アプリで「セキュリティ」または「Google」→「デバイスを探す」がオンになっていることを確認します。
実行手順:他のデバイスのブラウザから android.com/find にアクセスし、対象デバイスのGoogleアカウントでログインします。対象デバイスを選択後、「デバイスデータを消去」をクリックし、確認画面で再度選択すると処理が開始されます。消去後はこの機能を利用できなくなります。
Windows PCの場合
Windows 10/11では「デバイスの検索」機能が提供されていますが、主な機能は遠隔ロックです。
事前設定:「設定」→「更新とセキュリティ」→「デバイスの検索」を開き、機能がオンになっていることを確認します。
実行手順:ブラウザから account.microsoft.com/devices にアクセスし、Microsoftアカウントでサインインします。デバイス一覧から対象PCを選び、「デバイスを探す」→「ロック」を選択することで遠隔ロックが可能です。
Windowsの標準機能での完全なリモートワイプは限定的です。法人が確実なデータ消去を求める場合は、次項で解説するMDMの利用が必須となります。
MDMツールを使った方法(法人向け)
企業が組織的に多数のデバイスを管理する場合、OS標準機能だけでは不十分であり、MDM(Mobile Device Management)ツールの導入が一般的です。
MDMの主な機能
MDMはリモートワイプだけでなく、モバイルデバイスを安全かつ効率的に運用するための多彩な機能を備えています。
リモートワイプ/ロック:遠隔からのデータ消去やデバイスのロック。
構成プロファイルの配布:Wi-FiやVPN、メールアカウントなどの設定を遠隔で一括配布。
アプリケーション管理:業務に必要なアプリの配布や、不要なアプリのインストール禁止。
機能制限:カメラやUSBポートの使用禁止など、デバイスの機能を制限。
資産情報収集:OSバージョンやインストール済みアプリなどの情報を自動で収集し、一元管理。
主要なMDMツール
市場には様々なMDMツールが存在します。代表的なものとして以下が挙げられます。
Microsoft Intune:Microsoft 365との親和性が高く、Windows、macOS、iOS、AndroidなどマルチOSに対応したUEM(統合エンドポイント管理)ソリューション。
Jamf Pro:Appleデバイス(Mac、 iPhone、 iPad)の管理に特化した業界標準ツール。
Google Workspace:Business Plus以上のプランで、AndroidおよびiOSデバイスに対する高度なモバイル管理機能を提供。
CLOMO MDM:国内市場で高いシェアを誇る、日本語のサポートが手厚いMDMサービス。
リモートワイプに使用するMDMツールの選び方
自社に最適なMDMツールを選ぶためには、いくつかのポイントを押さえる必要があります。
対応OSと管理したいデバイスの種類を確認する
まず、自社で利用している、あるいは利用予定のデバイスのOS(iOS、 Android、 Windows、 macOSなど)にMDMが対応しているかを確認します。
MDM製品によっては特定のOSに特化しているもの(例:Jamf ProはApple製品のみ)や、マルチOSに対応しているものがあります。従業員が様々な種類のデバイスを利用している環境では、マルチOS対応のMDMが適しています。
自社のセキュリティポリシーを満たす機能を確認する
リモートワイプ以外に、どのようなセキュリティ要件があるかを明確にし、それを満たす機能を持つMDMを選びます。
例えば、「パスワードを8桁以上に強制したい」「業務外アプリのインストールを禁止したい」「BYODを許可するためセレクティブワイプは必須」など、具体的な要件をリストアップします。製品の機能一覧と比較し、自社のポリシーを実現できるかを見極めることが重要です。
クラウド型かオンプレミス型かを確認する
MDMには、サービス提供事業者のサーバーを利用する「クラウド型」と、自社内にサーバーを構築する「オンプレミス型」があります。
現在主流のクラウド型は、サーバー管理の手間や初期投資が少なく、迅速に導入できるメリットがあります。一方、オンプレミス型は、自社の閉域網で運用できるため、非常に高度なセキュリティ要件を持つ企業に適していますが、構築・運用コストが高くなります。多くの企業にとってはクラウド型が現実的な選択肢となります。
リモートワイプを成功させるためのポイント
いざという時にリモートワイプを確実に実行するためには、事前の準備と、実行時の注意点を理解しておく必要があります。
事前準備のポイント
リモートワイプは、事が起こってからでは設定できません。平時から以下の準備を徹底しておくことが重要です。
機能の有効化と通信確認:OS標準機能やMDMエージェントが有効になっており、管理サーバーと正常に通信できているか定期的に確認します。
バックアップの徹底:リモートワイプはデータを完全に消去するため、復元はできません。重要なデータは、クラウドストレージや社内サーバーへ定期的にバックアップする運用を徹底します。
従業員への教育:紛失・盗難が発生した際の報告手順や、リモートワイプが実行される条件などを従業員に周知し、セキュリティ意識を高めます。
実行時のポイント
リモートワイプを実行する前に、データ消去が不可逆的な操作であることを十分に認識してください。
リモートワイプを実行すると、デバイス内のデータは基本的に復元できなくなります。一時的に見失っただけで後から見つかる可能性も考慮し、リモートロック機能を優先し、データ消去は最終手段として実行を判断すべきです。
まとめ
本記事では、情報漏洩を防ぐための重要なセキュリティ機能であるリモートワイプについて、その概要から具体的な実行手順、法人利用におけるMDMの重要性と選び方までを詳しく解説しました。
個人の方はOS標準機能が有効かを確認し、企業のIT管理部門はMDMによる適切なデバイス管理体制を構築することが、多様な働き方における情報資産保護の鍵となります。万が一の時に慌てないよう、今すぐ自社のセキュリティ体制を見直しましょう。
本記事の内容に誤り等がございましたら、こちらからご連絡ください。
監修
Admina Team
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