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Admina Team
2025/07/16
「最近、Web会議が途切れる」「Microsoft 365やSalesforceなどのクラウドサービスの動作が重い」多くの企業でこのような課題が顕在化しています。この課題を解決する鍵として注目されているのが、ローカルブレイクアウトです。
本記事では、ローカルブレイクアウトの基本的な仕組みから、導入のメリット・デメリット、そして成功に不可欠なセキュリティ対策まで詳しく解説します。
ローカルブレイクアウトの仕組み
ローカルブレイクアウトは、従来のセンター集約型が抱える課題を解決するためのネットワーク構成です。本項では、ローカルブレイクアウトの仕組みを、従来の構成と比較しながら具体的に見ていきましょう。
従来のセンター集約型との比較
センター集約型では、地方の営業所や店舗などの各拠点からインターネット上のクラウドサービスにアクセスする場合でも、一度本社やデータセンターを経由する必要がありました。そのため、遠回りなルートで通信しているのと同じ状態であり、時間(遅延)とコスト(帯域)に無駄が生じていました。
各拠点から直接インターネットへ接続する仕組み
ローカルブレイクアウト(Local Breakout、LBOとも呼ばれます)は、この遠回りをやめ、各拠点から直接インターネットへ接続する経路を設ける仕組みです。信頼できるクラウドサービス(Microsoft 365など)など特定の通信先のみデータセンターを経由せず、各拠点から直接アクセスさせます。これにより、データセンターの負荷を軽減し、ユーザーは快適にサービスを利用できるようになります。
ローカルブレイクアウトが求められる背景
なぜ、これほどまでにローカルブレイクアウトが重要視されるようになったのでしょうか。その背景には、近年のビジネス環境における大きな変化があります。
クラウドサービスの利用拡大とトラフィックの増大
Microsoft 365、Google Workspace、Salesforceなど、業務におけるクラウドサービス(SaaS)の利用はもはや当たり前となりました。クラウドサービスとの通信はインターネットを経由して行われるため、必然的にインターネット向けのトラフィックが増大しています。従来のネットワーク構成では、この増加したトラフィックを捌ききれず、通信の輻輳を引き起こしてしまいます。
テレワークの普及による通信経路の変化
働き方改革やパンデミックを経て、テレワークは多くの企業で標準的な働き方となりました。従業員が自宅やサテライトオフィスから社内システムやクラウドサービスにアクセスするようになり、通信経路は多様化・複雑化しています。全従業員の通信を一度データセンターに集約する従来の方法では、非効率で遅延の原因となる場合があります。
従来のネットワーク構成が抱える課題
従来の多くの企業ネットワークは、各拠点からの通信をすべてデータセンターに集約し、そこから一元的にインターネットへ接続する「センター集約型(クローズド構成)」を採用していました。このモデルは、セキュリティを一元管理できるメリットがありますが、前述のトラフィック増大により、データセンターの回線やゲートウェイ機器がボトルネックとなり、通信速度の低下や遅延を招く大きな原因となっています。
ローカルブレイクアウトを実現する方式
ローカルブレイクアウトを実現するには、いくつかの方式があります。それぞれに特徴があり、自社の規模やセキュリティポリシーに合わせて最適な方式を選択する必要があります。
各拠点にセキュリティ機器を設置する方式
最もシンプルな方法は、各拠点に次世代ファイアウォール(NGFW)やUTM(統合脅威管理)などのセキュリティ機能を備えたアプライアンス機器を設置する方式です。これにより、拠点単位でセキュリティを確保しながらインターネットへ接続します。ただし、拠点数が多くなると、機器の導入コストや運用管理の負担が大きくなる傾向があります。
SWG(Secure Web Gateway)を利用する方式
SWGは、クラウド上で提供されるセキュリティサービスです。各拠点からのインターネット向け通信を一度このSWGクラウドを経由させることで、URLフィルタリングやアンチウイルス、サンドボックスといった高度なセキュリティチェックを一元的に適用できます。拠点に高価な機器を置く必要がなく、運用負荷を軽減できるのが大きなメリットです。
SD-WANを活用する方式
SD-WAN(Software-Defined Wide Area Network)は、ソフトウェアによってネットワークを柔軟に制御する技術です。多くのSD-WANソリューションには、アプリケーションの種類を識別し、通信経路を自動的に振り分ける機能が備わっています。例えば、「Microsoft 365への通信は直接インターネットへ、基幹システムへの通信はデータセンターへ」といったポリシーベースの制御を容易に実現でき、ローカルブレイクアウトと非常に親和性が高い方式です。

ローカルブレイクアウトを導入するメリット
ローカルブレイクアウトを導入することで、企業は具体的にどのような恩恵を受けられるのでしょうか。
通信遅延の解消と業務効率の向上
最大のメリットは、通信遅延の解消です。各拠点から最短経路でクラウドサービスにアクセスできるため、Web会議の音声や映像が安定し、大容量ファイルのダウンロードもスムーズになります。ネットワークの応答性が向上することで、従業員のストレスが軽減され、業務全体の生産性向上が期待できます。
ネットワークコストの最適化
データセンターを経由するトラフィック量が減少するため、高価なデータセンターのインターネット回線を増強し続ける必要がなくなります。各拠点には安価なブロードバンド回線などを活用できるため、ネットワーク全体の運用コストを最適化することが可能です。無駄な通信経路をなくすことが、直接的なコスト削減に繋がります。
クラウドサービスの快適な利用
Microsoft 365やZoomなどは、快適な利用体験を提供するために、ユーザーとサーバー間の遅延を最小限に抑えるよう設計されています。ローカルブレイクアウトは、まさにこの設計思想に合致したネットワーク構成です。クラウドサービスのパフォーマンスを最大限に引き出し、その利便性を余すところなく享受できるようになります。
ローカルブレイクアウトを導入するデメリット
多くのメリットがある一方、ローカルブレイクアウトには必ず考慮すべきデメリットや注意点が存在します。特にセキュリティと運用管理の観点から、そのリスクを正しく理解しておくことが重要です。
セキュリティレベルの低下
各拠点が直接インターネットに接続するということは、それぞれの拠点がサイバー攻撃の脅威に直接晒されることを意味します。これまでデータセンターで一元的に行っていたファイアウォールやURLフィルタリングなどのセキュリティ対策を、各拠点でも同等レベルで確保しなければ、セキュリティレベルが著しく低下する危険性があります。
運用管理の複雑化
セキュリティポリシーの適用や、各拠点に設置したネットワーク機器の監視・メンテナンスなど、運用管理の対象がデータセンターから各拠点へと分散します。これにより、情報システム部門の管理業務が複雑化し、負担が増大する可能性があります。拠点ごとに設定が異なると、ガバナンスの維持も難しくなります。
拠点ごとのITガバナンス維持の難しさ
全社で統一されたセキュリティポリシーや利用ルールを、物理的に離れた各拠点で徹底させることは容易ではありません。各拠点で個別の設定変更が行われるなど、意図しないセキュリティホールを生み出してしまうリスクも考えられます。一貫したITガバナンスをどう維持するかが大きな課題となります。

ローカルブレイクアウトを成功させるポイント
ローカルブレイクアウトを成功させるためには、デメリットとして挙げたセキュリティリスクへの対策が不可欠です。従来の境界型防御だけでなく、より進んだセキュリティの考え方を取り入れる必要があります。
SWGやCASBによるクラウドセキュリティ
前述のSWGに加え、CASB(Cloud Access Security Broker)の活用も有効です。CASBは、従業員によるクラウドサービスの利用状況を可視化し、制御するソリューションです。シャドーIT(会社が許可していないサービスの利用)の検知や、機密情報のアップロード禁止など、クラウド利用に特化したきめ細やかなセキュリティ対策を実現します。
ZTNAの考え方を取り入れる
社内だから安全という考え方を捨て、すべての通信を信用せずに検証する「ゼロトラスト・ネットワーク・アクセス(ZTNA)」は、ローカルブレイクアウト環境と非常に相性が良い概念です。ユーザーやデバイスの正当性を常に確認し、アクセス権を最小限に絞ることで、仮にどこかの拠点が侵害されても被害の拡大を防ぎます。
Fortigateなどの次世代ファイアウォールの活用
各拠点にセキュリティ機器を設置する場合、Fortinet社のFortigateに代表される次世代ファイアウォール(NGFW)が有力な選択肢となります。NGFWは、従来のファイアウォール機能に加え、アプリケーション識別、不正侵入防止(IPS)など、多様なセキュリティ機能を一台で提供します。特にSD-WAN機能を統合した製品も多く、効率的なローカルブレイクアウト環境を構築できます。
ローカルブレイクアウト導入の成功事例
理論だけでなく、実際にどのような分野でローカルブレイクアウトが活用されているのか、具体的な事例を見てみましょう。
一般企業の導入事例
全国に多数の支店や店舗を展開する小売業や金融機関では、各拠点でのWeb会議やクラウド型POSシステムの利用が増加し、センター集約型のネットワークでは業務に支障が出ていました。SD-WANとSWGを組み合わせることで、通信品質を向上させつつ、全拠点で均一なセキュリティを確保し、運用コストの削減にも成功しています。
自治体の導入事例
地方自治体では、LGWAN(総合行政ネットワーク)に接続された環境で業務を行っていますが、近年、Microsoft 365の導入など、インターネットを利用する機会が増えています。この際、すべての通信をLGWAN経由にすると回線が逼迫するため、特定のインターネット向け通信を分離する「LGWAN接続系とインターネット接続系の分離」、すなわちローカルブレイクアウトの考え方を採用する自治体が増加しています。
まとめ
ローカルブレイクアウトは、クラウドとテレワークが主流となった現代のビジネスにおいて、通信遅延やコストといった課題を解決する非常に有効な手段です。セキュリティリスクを正しく理解し、SWGやSD-WAN、ゼロトラストといった新しい技術や考え方を取り入れ、自社の規模や業務内容、セキュリティポリシーに合わせた慎重な設計が求められます。この記事が、貴社のネットワーク環境を見直し、より快適で安全なデジタルワークプレイスを実現するための一助となれば幸いです。
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