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WANとは?LANとの違いや種類・選定ポイントを情シス向けに解説

WANとは?LANとの違いや種類・選定ポイントを情シス向けに解説

WANとは?LANとの違いや種類・選定ポイントを情シス向けに解説

WANとは?LANとの違いや種類・選定ポイントを情シス向けに解説

公開日

最終更新日

WANとは、本社、支社、店舗、工場、データセンター、クラウドなど、離れた場所にあるネットワークを接続する広域通信網です。LANが建物やフロア内の通信を担うのに対し、WANは通信事業者の回線やインターネット、仮想的なトンネルを利用して複数のLANを結びます。

本記事では、主要なWAN方式を品質、責任分界、コスト構造、セキュリティの同じ軸で比較し、拠点間VPNからSD-WANやSASEへ移行する際の設計手順まで解説します。閉域網と暗号化の違い、SD-WANと回線品質の関係など、選定時に誤解が生じやすい点は各章で一度だけ整理します。

拠点間やクラウドを接続するWANの概要やLANとの違い、専用線・VPN・SD-WANの比較と情シス向けの選定・設計ポイントを解説するインフォグラフィック。

WAN(広域通信網)とは?基礎概念と企業での役割

WANとは、地理的に離れた拠点のLANやクラウド環境を相互接続する広域通信ネットワークです。

本記事のポイント

  • LANは限定された場所のネットワーク、WANは離れたLANやクラウドを結ぶネットワークです。

  • WANの品質、暗号化、SLA、責任分界は、利用するサービスと契約メニューで変わります。

  • SD-WANは回線そのものではなく、複数の物理回線をソフトウェアで制御する仕組みです。

  • 方式の選定は従業員数ではなく、通信先、ピーク帯域、停止許容時間、運用体制を基準にします。

方式選定早見表(短時間で候補を絞りたい場合)

主な条件

まず候補にする方式

補足

拠点間の品質を安定させたい、基幹系・音声が中心

IP-VPN/専用線

帯域・SLAはメニューと契約で変わります。クラウド向け通信が増える場合はLBOを併用します

SaaSやクラウド利用が中心、本社集中を解消したい

SD-WAN+LBO/SSE

下位回線の増速や別回線追加と組み合わせます。LBO後のセキュリティ設計が必要です

コストを抑えつつ複数拠点を接続したい

インターネットVPN

ベストエフォート回線が中心のため、基幹系や音声の品質要件と照合します

拠点とリモート利用者を一元管理したい

SASE/SSE

既存認証基盤との統合と、既存WANの維持/統合どちらにするかを先に決めます

既存回線を維持しながら管理だけ効率化したい

SD-WAN(オーバーレイのみ)

物理回線はそのまま残し、制御面だけを移行できます

WANの定義

WANは、都市、地域、国などをまたいでネットワークを接続するための仕組みです。企業では、東京本社と各支店を結ぶだけでなく、店舗からクラウド型POSへ接続する通信、工場からデータセンターへ送る生産データ、クラウドサービスへのアクセスもWAN設計の対象になります。

WANをわかりやすく表すと、「離れた場所にあるLAN同士をつなぐ道」です。ただし、接続先がクラウド中心になった現在は、すべての通信を本社へ集約する構成だけでなく、各拠点からインターネットへ直接接続する構成も使われます。

企業WANの役割

企業WANは、業務アプリケーションを利用できる状態に保ち、通信先ごとに経路とセキュリティを制御します。対象には基幹システム、音声、Web会議、SaaS、バックアップ、監視カメラ、IoT機器などが含まれます。通信量だけでなく、遅延、ジッタ、パケット損失、停止時の業務影響を分けて設計します。

閉域性だけに依存せず、経路障害と不正アクセスの双方を設計対象にします。閉域網はインターネットから経路を分離しますが、通信内容の暗号化とは別の対策であるため、扱う情報や監査基準に照らして必要性を判断します。

LANとWAN、インターネット、VPNの違い

LANとWANの違いは接続範囲だけではなく、設備の管理主体、責任分界、品質管理、継続コストにもあります。

比較項目

LAN

WAN

インターネット

主な範囲

建物、フロア、敷地内

離れた拠点、データセンター、クラウド間

世界中の公開ネットワーク

主な設備

スイッチ、無線LAN、LANケーブル

ルーター、回線終端装置、VPN装置、SD-WAN装置

通信事業者や接続事業者の設備

管理責任

自社管理が中心ですが、保守委託もあります

契約上の責任分界点を境に自社と事業者が分担します

複数事業者にまたがり、利用企業が全経路を管理することはできません

品質

自社の配線、機器、端末数、無線環境に左右されます

回線方式、帯域、混雑、SLA、冗長構成に左右されます

原則としてエンドツーエンドの帯域保証はありません

コスト構造

機器、保守、ライセンス、電力、インターネット接続など

初期工事、アクセス回線、網利用、機器、運用など

接続回線、プロバイダー、セキュリティサービスなど

接続範囲と管理責任の違い

LANは自社が制御できる限定的な範囲で構築するのが一般的です。WANでは公道や地域をまたぐため、多くの場合は通信事業者の設備を利用します。ただし、WAN側のルーターや暗号化装置を自社が所有する契約もあり、「WANはすべて通信事業者の管理」とは限りません。

障害時の連絡先を明確にするには、ONU(光回線終端装置)、アクセス回線、WANルーター、SD-WAN装置、LANスイッチの各境界を整理します。マネージドサービスなら拠点装置まで事業者が保守する場合がありますが、LAN側の配線や端末は対象外になることがあります。

速度とコストの違い

LANでは1Gbpsや10Gbpsの接続を構成しやすい一方、実際の速度は端末、スイッチ、無線LAN、サーバーの処理能力にも左右されます。WANも契約帯域だけでは評価できません。クラウドまでの経路、混雑、暗号化処理、海外区間の遅延を含めて実測します。

LANにも無線LAN管理ライセンス、保守契約、機器更新、電力などの継続費用が発生します。WANはこれらに加えて回線費や網利用料が加わるため、月額だけでなく、開通工事、監視、障害対応、撤去費まで含めて比較します。

VPNとWANの関係

VPNはWANと対立する用語ではありません。VPNとは、公衆網や閉域網の上に暗号化または論理分離された仮想ネットワークを構築する技術です。インターネットVPNはWANを実現する方式の一つであり、IP-VPNは通信事業者の閉域網を使うサービス区分です。

ルーターのLANポートとWANポート

ルーターのLANポートは社内端末やスイッチを接続する側、WANポートは回線終端装置や上位ネットワークへ接続する側です。この表示は機器上の役割を表しており、WANポートにつないだ回線が必ず専用線や閉域網になるわけではありません。家庭用ルーターでは、WANポートがインターネット回線側を意味するケースが一般的です。

主要WAN通信方式の比較と料金構造

WAN比較では、回線名称だけでなく、帯域保証、SLA、暗号化、拡張性、責任分界、総保有コストを同じ条件で照合します。

主要方式を横断した公的な標準料金は、本記事で確認した公開資料の範囲では確認できません。距離、帯域、提供地域、冗長化、保守範囲で金額が変わり、料金非公開のサービスも多いため、表では費用を構成する項目と「要問合せ」を明記します。また、品質・SLA・セキュリティの各欄はサービスの一般的な傾向を整理したものです。サービス名称や提供範囲は通信事業者により異なるため、選定時は各事業者の個別サービス仕様書および契約約款を確認します。SLAの対象区間、保守時間、責任分界点が自社の停止許容時間に合えば候補に残し、合わなければ冗長構成または別方式を比較します。

方式

接続の仕組み

品質・SLA

セキュリティ

料金・契約

適する条件と限界

専用線

特定地点間に専用の通信区間を提供

帯域保証やSLAの内容は契約依存

他利用者との分離は可能ですが、暗号化は別要件

距離、帯域、冗長構成を含む個別見積もり・要問合せ

停止影響が大きい拠点間。多拠点展開では費用と構成が増えます

IP-VPN

通信事業者の閉域IP網で拠点を接続

確保帯域、優先制御、SLAはメニュー依存

インターネットから分離されますが、閉域と暗号化は別概念

アクセス回線、ポート、装置、保守を含む個別見積もり・要問合せ

基幹系や音声を含む多拠点接続。SaaS通信の集中に注意します

広域イーサネット

L2で複数拠点を接続

帯域とSLAはサービス依存

閉域性に加え、VLANやループ対策を自社で設計

回線、網利用、装置を含む個別見積もり・要問合せ

自由なL2設計が必要な環境。設計と障害切り分けが複雑です

インターネットVPN

インターネット上にIPsecなどの暗号化トンネルを構築

アクセス回線はベストエフォートが中心

暗号方式、鍵、装置更新、送信元制御を自社側で管理

回線、ルーター、ライセンス、運用費。公開料金または要問合せ

コストを抑えやすい一方、混雑と単一回線障害の影響を受けます

SD-WAN

複数回線の上に仮想ネットワークを構成し、経路を一元制御

回線品質を監視して切り替え可能ですが、下位回線の品質は変えません

暗号化、分割、アプリ制御に加え、LBO先の防御を設計

回線、装置、ライセンス、管理、セキュリティを含む個別見積もり・要問合せ

SaaS利用や多拠点管理に適合。ポリシー運用の負荷が残ります

SASE・SSE

クラウド上のセキュリティ機能へ通信を接続

最寄り接続拠点までの経路とサービス基盤に依存

SWG、CASB、ZTNA、FWaaSなどを統合

ID数、拠点数、機能、通信量などによる契約・要問合せ

拠点とリモート利用者の統一制御に適合。既存認証との統合が課題です

専用線と閉域網の契約特性

専用線は必ずしも一本の物理ファイバーを単独利用する形だけではなく、論理的に専用化された提供形態もあります。遅延がゼロになるわけでもありません。帯域、遅延、ジッタ、可用性、保守時間、障害通知、返金条件を契約書で分けて評価します。

IP-VPNや広域イーサネットも、すべての契約で帯域が保証されるわけではありません。閉域網はインターネットから分離された経路ですが、機密性を暗号技術で担保するものとは限らないため、脅威モデルや監査基準が暗号化を要求するならIPsecなどを重ねます。

インターネットVPNの契約特性

インターネットVPNは低コストで開通しやすい反面、回線混雑や上位網障害の影響を受けます。業務停止を避けたい場合は、異なるアクセス回線を組み合わせ、SD-WANやルーターの経路制御で自動切り替えを構成します。二回線が同じ収容局や建物引込経路を共有していると同時に停止する可能性があるため、回線数だけで冗長性を判断しません。

ダークファイバの契約特性

ダークファイバとは、敷設済みで光信号を通して運用されていない未使用の光ファイバー芯線を借り受ける形態です。通信事業者の予備回線をそのまま使うサービスではありません。利用者側が伝送装置、光レベル、保守、監視、冗長経路を設計する範囲が大きいため、運用能力と責任分界を確保できる場合に検討対象になります。

IT Leadersは、IDC Japanが2025年6月2日に公表した「国内通信サービス市場予測、2025年~2029年」に基づき、国内Ethernet専用線市場が2024年の714億円から年平均3.7%で成長し、2029年に858億円へ達すると紹介しています。IT Leaders掲載記事では、IDC JapanがAIデータセンター間接続などを成長要因として挙げたと伝えています。この数値はIDC Japanの有償調査を基にした紹介情報であり、対象範囲・算定定義の詳細は同社の原資料で扱われます。重要通信と一般通信を分けるハイブリッド構成は、停止許容時間と通信要件を分離できる場合の選択肢になります。

SD-WANの仕組みと直近の市場動向

SD-WANとは、専用線、閉域網、インターネット、LTEなどを下位回線として利用し、アプリケーションごとに経路を制御する仕組みです。

SD-WANの基本構造

SD-WANは、物理回線であるアンダーレイの上に、暗号化トンネルなどのオーバーレイを構成します。管理画面から拠点設定を配布し、遅延、ジッタ、パケット損失などを監視して経路を選択できます。下位回線が混雑している場合に新しい帯域を生み出す技術ではないため、回線増速や別回線の追加と組み合わせます。

ゼロタッチプロビジョニングを使えば設定作業を減らせますが、回線工事、電源、配線、機器設置、故障時の交換は残ります。「現地作業が完全になくなる」ことを前提に移行計画を組むと、開通遅延や機器交換で工程が止まります。

ローカルブレイクアウトの位置付け

ローカルブレイクアウトは、Microsoft 365やWeb会議などの通信を本社やデータセンターへ戻さず、拠点から直接インターネットへ送る構成です。本社側のゲートウェイ負荷とヘアピン通信を減らせます。ただし、SD-WANはLBOの必須条件ではなく、拠点ファイアウォールやSSEでも実現できます。

LBOを有効にしても、接続先クラウド、拠点回線、DNS、端末のいずれかが遅ければ体感速度は改善しません。導入前後でアプリケーション別の応答時間とパケット損失を測り、改善しなければ経路や回線を再設計します。

SASEとSSEの役割

SASEは、SD-WANとクラウド型のSWG(Secure Web Gateway:Webアクセスを中継・検査する機能)、CASB(Cloud Access Security Broker:クラウド利用を可視化・統制する機能)、FWaaS(Firewall as a Service:クラウド型ファイアウォール)、ZTNA(Zero Trust Network Access:利用者・端末単位でアクセスを制御する仕組み)などを統合するネットワーク・セキュリティ構造です。SSEは主にセキュリティ機能をまとめた考え方で、SD-WANを含みません。既存WANを維持したままSSEを追加する構成と、WANを含めてSASEへ統合する構成は分けて比較します。NISTは「SP 800-207 Zero Trust Architecture」(https://csrc.nist.gov/pubs/sp/800/207/final、2020年公開)で、ネットワーク上の場所だけに依存せず、利用者、端末、資産、リソースを基準にアクセスを評価する考え方を示しています。

直近公表データから見る需要

IIJは2025年2月14日、アイ・ティ・アールへの委託調査「多店舗/多拠点企業におけるネットワーク実態」の結果を公表しました。調査は10拠点以上を持つ国内企業でネットワークの実務または運用計画に携わる回答者216社を対象に、2024年11月15日から18日にWebアンケートで実施されています。IIJは、回答者の53%が「SaaSへのアクセスなど店舗・拠点でのネットワーク利用に不便なことや制限が多い」と回答したと公表しています(IIJプレスリリース「多店舗/多拠点企業におけるネットワーク実態調査」、2025年2月14日公開、https://www.iij.ad.jp/news/pressrelease/2025/0214.html)。

IIJは同じ発表で、IIJ Omnibusサービスについて国内SD-WAN市場で3年連続シェア1位を獲得したと説明しています。ただし、IIJの説明では、富士キメラ総研「2024 コミュニケーション関連マーケティング調査総覧」の2023年度末時点におけるサービス利用CPE累計台数ベースの結果を根拠にしています。比較指標は売上高や利用企業数ではないため、市場全体の製品評価とは分けて扱います。

IT Leadersは2025年8月25日、IDC Japanが2025年8月21日に発表した「国内SD-WAN市場予測、2025年~2029年」に基づき、国内SD-WAN市場が2024年の173億円から年平均9.9%で推移し、2029年に277億円へ達すると紹介しています。IT Leaders掲載記事。これはIDC Japanの市場予測を第三者媒体が紹介した情報であり、予測の詳細な定義・前提条件は原レポートで確認する必要があります。2026年の選定では、既存回線を維持できるか、ログを自社の監視基盤へ送れるか、契約終了時に設定を移行できるかを判断軸にします。

ANAのハイブリッドWAN事例

KDDIは公式導入事例で、全日本空輸の北米ネットワークにおいて、専用線1本とインターネット回線を仮想化技術で組み合わせて帯域を確保し、従来構成のまま増強する場合と比べて運用コストを約4割削減できたと掲載しています。KDDIの全日本空輸導入事例。この数値は当該事例の回線構成、導入範囲、比較条件に基づくものであり、他社の削減率を示すものではありません。高品質回線を全面廃止せず、重要通信と一般通信を分ける設計の実例として参照できます。

市場データ・事例の参照条件

本記事の市場規模・シェア・調査データは、IDC Japanの有償レポートを紹介したIT Leadersの記事、IIJが公表した委託調査、KDDIが掲載した導入事例を参照しています。市場規模は調査会社の定義と予測時点に左右され、シェアは比較対象と算定指標で意味が変わります。導入効果は個別企業の構成・契約・導入範囲に依存します。予算や導入判断に使う場合は、掲載リンクの原文、サービス仕様書、見積書、契約約款を同じ時点の資料で照合し、対象範囲が自社の条件と一致すれば比較表へ反映し、一致しなければ参考値として扱います。

WANを支える構成機器と責任分界

WAN障害を短時間で切り分けるには、通信経路を端末、LAN、拠点装置、アクセス回線、事業者網、接続先の単位に分解します。

拠点側の構成機器

一般的な拠点では、端末からL2スイッチ、L3スイッチまたはルーター、VPN・SD-WAN装置、ONUなどの回線終端装置を経由してWANへ接続します。無線LANを使う場合は、アクセスポイント、認証基盤、無線LANコントローラーも通信経路に含まれます。

SD-WAN装置とファイアウォールを別々に置く構成では、経路制御とセキュリティポリシーの管理者が分かれます。統合装置では運用画面を減らせますが、障害や更改の影響範囲が広がります。構成図には機器名だけでなく、管理部署、保守会社、設定バックアップの保管先を記載します。

サービス境界とSLA

責任分界点は、通信事業者が保守する範囲と利用企業が管理する範囲の境界です。回線終端装置までが事業者管理でも、その先のLANケーブル、電源、WANルーターが利用企業管理なら、現地確認なしでは復旧できない場合があります。

SLA(Service Level Agreement:サービス品質に関する契約上の合意)では稼働率だけでなく、遅延、パケット損失、障害受付、復旧目標、計画停止、対象外条件を読み分けます。サービスクレジットは停止を防ぐ機能ではありません。停止許容時間を超える業務があるなら、SLAの数値を上げるだけでなく、別障害ドメインの回線へ切り替える構成を組みます。

ワイヤレスWANの役割

LTEや5GによるワイヤレスWANは、工事待ちの仮設回線や有線回線のバックアップとして利用できます。主回線と携帯回線が異なる経路を通る構成なら、建物引込線の断線に対する冗長性を高められます。一方、基地局の混雑、屋内電波、通信容量、災害時の長時間停電を考慮し、実際の設置場所でフェイルオーバー試験を行います。

拠点LANからWANへの接続機器構成と通信事業者との責任分界点

▲ 拠点LANからWANへの接続機器構成と通信事業者との責任分界点

拠点間VPNからSD-WAN・SASEへの移行設計

拠点間VPNの移行は、現状把握、回線設計、暗号化と鍵管理、LBO防御、並行稼働、旧環境廃止の順で進めます。

フェーズ

実施内容

完了条件

現状把握

拠点、回線、契約、通信先、ピーク帯域、VPN設定、例外通信を棚卸し

通信フローと業務影響を一覧化できている状態

基本設計

下位回線、冗長経路、暗号化、経路選択、責任分界を決定

通常時と障害時の経路を図示できる状態

限定検証

影響の小さい拠点でアプリ動作、ログ、LBO、切り替えを検証

合否基準を満たし、未解決事項を記録した状態

並行移行

旧VPNを残して拠点単位に切り替え、復旧手順も確認

切り戻し可能な状態で対象通信が安定した状態

最適化・廃止

不要経路、旧装置、旧契約、暫定ルールを削除

構成図、台帳、監視、運用手順が更新された状態

移行前の通信可視化

回線帯域だけを見てSD-WANを選ぶと、どのアプリケーションを優先すべきか判断できません。拠点別、時間帯別、アプリ別に通信量を取得し、音声や会議では遅延とジッタ、ファイル転送ではスループット、基幹系では停止時の業務影響を記録します。

通信先を、社内データセンター、IaaS、SaaS、一般Web、拠点間通信に分類します。SaaSが多く、本社経由で遅延しているならLBOまたはSSEを検証します。オンプレミス向け通信が中心で品質が安定しているなら、既存の閉域網を維持して管理部分だけSD-WAN化する構成も選べます。

暗号化と鍵管理の設計

閉域網を利用していても、契約上の分離方式と社内基準が要求する暗号化は別に評価します。通信内容の暗号化が条件なら、IPsecなどのオーバーレイを構成し、暗号アルゴリズム、認証方式、鍵の更新、失効、装置交換時の再発行を運用手順へ落とし込みます。

多数の拠点で証明書の発行・失効を自動化できるなら、装置ごとの証明書認証を選びます。証明書基盤を運用できないなら、少なくとも拠点ごとに異なる事前共有鍵を割り当て、共有台帳、更新周期、緊急失効手順を定めます。全拠点で同じ鍵を使い回す構成は、一拠点から漏えいした際に全体の交換が発生するため避けます。

回線と障害ドメインの冗長化設計

主回線と副回線の事業者名が異なっても、局舎、管路、建物への引込口、電源が共通なら同時停止する可能性があります。物理経路を分離できるなら固定回線二系統を使い、分離できないなら携帯回線や別建物の接続点を組み合わせます。

切り替え条件は「回線断」だけでは不十分です。遅延やパケット損失が業務アプリの許容値を超えた場合も経路を変更するよう設計します。切り替え後の回線容量が小さい場合は、音声や基幹通信を優先し、バックアップや動画通信を抑制します。

ローカルブレイクアウトの防御設計

LBOでは、本社のプロキシやファイアウォールを通らなくなる通信に同等の防御を適用します。最初に許可するSaaSと一般Webを分類し、DNSフィルタリングで既知の不正ドメインを遮断します。次にSWGでURL、ファイル、アップロードを制御し、端末側ではEDR(Endpoint Detection and Response:端末の検知・対応機能)とOS更新を適用します。

利用者認証には多要素認証と端末状態の確認を組み合わせます。拠点LANでは業務端末、来客用Wi-Fi、IoT機器を分離し、感染時の横展開を抑えます。DNS、SWG、EDR、認証、SD-WANのログを同じ時刻基準で集約できるなら中央監視へ進み、集約できない製品があるならCSVなどによる定期取得と保存期間を運用に組み込みます。

並行移行と切り戻し設計

全拠点を一度に切り替えず、業務影響の小さい拠点から限定検証します。旧VPNを一定期間残し、ルーティング、名前解決、認証、印刷、音声、クラウド接続をアプリケーション単位で確認します。不具合時に旧経路へ戻せる条件を事前に決め、切り戻し操作も本番前に試験します。

移行後は暫定的に許可した通信ルールを棚卸しし、不要なVPNトンネル、管理アカウント、旧装置、保守契約を廃止します。旧環境を残したままにすると、管理対象と攻撃経路が増えるため、廃止完了を移行プロジェクトの終了条件に含めます。

拠点間VPNからSD-WAN・SASEへの段階的な移行プロセス

▲ 拠点間VPNからSD-WAN・SASEへの段階的な移行プロセス

WAN導入・運用のデメリットと失敗パターン

WAN刷新の失敗は、回線の実効品質、LBO後のセキュリティ、運用者の作業量を設計前に測らない場合に起きやすくなります。

回線選定の失敗

月額料金だけでベストエフォート回線へ一本化すると、混雑時間帯に基幹システムや音声が利用しにくくなる場合があります。契約速度は最大値であり、実効速度や遅延を保証するとは限りません。現行回線の繁忙時間帯を測定し、業務別の許容値と比較してから帯域と回線方式を決めます。

副回線を契約しただけで冗長化が完了したと考えるのも失敗です。同じONU、ルーター、電源タップ、建物引込口を共有すれば、単一障害点が残ります。回線、装置、電源、経路を図面上で分け、実際に主回線を停止して切り替えを検証します。

ポリシー設計の失敗

LBOでSaaS通信を本社から分離したものの、DNSフィルタリング、SWG、EDR、ログ監視を追加しないと、本社境界で遮断していた不正通信を見逃します。通信速度の改善だけを完了条件にせず、許可先、認証、端末状態、ログ保存、例外申請まで設計対象にします。

アプリ識別機能を過信する構成にも注意します。クラウドサービスの接続先や証明書が変更されると、意図しない経路へ流れる場合があります。重要アプリは名前解決、送信先、実通信を監視し、分類できない通信の既定経路を決めます。

運用体制の失敗

SD-WANやSASEは設定を一元化できますが、ポリシー変更、アラート分析、証明書更新、障害切り分けが自動的になくなるわけではありません。導入前に、変更承認、一次対応、事業者への連絡、現地作業、夜間対応を誰が担うかを作業単位で割り当てます。

自社で設定とログを継続管理できるなら内製運用を選びます。担当者を固定できない、または営業時間外の障害対応ができないなら、監視、設定変更、機器交換の範囲を明記したマネージドサービスを比較します。担当者数だけではなく、拠点数、変更頻度、停止許容時間で判断します。

やってはいけない移行判断

従業員数だけでWAN方式を決める、閉域網なら暗号化と端末防御が不要と判断する、全拠点で同じVPN鍵を使う、切り戻し手順なしで一斉切り替えする、といった設計は避けます。また、SD-WANを導入すれば回線自体が高速化すると見込まず、下位回線の増速や追加が必要かを測定結果から判断します。

自社に合うWANの選定プロセスとチェックリスト

自社に合うWANは、接続先、業務停止の影響、通信品質、セキュリティ基準、運用能力を順番に整理すると絞り込めます。

要件から方式を絞る判断フロー

以下のフローでは帯域、遅延、ジッタ、パケット損失率の具体的な許容値を一律に示していません。これらの基準は利用するアプリケーションやベンダー要件によって異なるため、各アプリケーションのシステム要件書または通信要件に関するベンダー公式ドキュメントを参照します。許容値を定義して測定結果と照合できれば既存回線の維持・増速・経路分散を比較でき、定義できなければ限定拠点での実測を先に行います。

  1. 通信先の分類:オンプレミス中心で一定品質が必要なら、IP-VPN、広域イーサネット、専用線を候補にします。SaaSやインターネット向け通信が本社に集中しているなら、LBO、SD-WAN、SSEを候補に加えます。

  2. 停止許容時間の整理:回線停止が受注、製造、決済へ直結するなら、異なる障害ドメインの副回線と自動切り替えを組み込みます。短時間の停止を業務手順で吸収できるなら、回線冗長化と運用コストを比較します。

  3. 品質の整理:音声や会議が多いなら遅延、ジッタ、損失率を確認し、大容量転送が多いなら実効帯域を確認します。測定値が許容範囲内なら既存回線を維持し、超えるなら増速または経路分散へ進みます。

  4. セキュリティの整理:閉域性が契約条件なら閉域網を維持します。暗号化、利用者認証、端末確認まで要求されるなら、IPsec、ZTNA、SWG、EDRを組み合わせます。

  5. 運用範囲の整理:自社で設定変更、ログ分析、証明書更新、障害対応を回せるなら自己管理型を選べます。回せない作業があるなら、その作業だけを委託範囲に含むマネージド型を比較します。

総保有コストの比較

料金比較では、月額回線費だけでなく、初期工事、装置、ライセンス、監視、現地保守、設定変更、回線撤去を含めます。SD-WANで安価な回線を併用しても、SASEライセンスや運用委託が増えれば総額が上がる場合があります。反対に、高価な専用回線を一部残しても、重要通信だけに限定すれば全面刷新より低リスクになる場合があります。

見積書の比較条件はそろえます。帯域、拠点数、契約期間、SLA、機器保守、24時間対応、設定変更回数、ログ保存期間、解約費を同じ表に転記し、含まれない作業は自社工数として加算します。料金が非公開なら要問合せと記載し、推測した単価で予算を確定しません。

WAN選定チェックリスト

  • 全拠点の回線、契約期間、解約条件、責任分界点を一覧化している

  • 繁忙時間帯の実効帯域、遅延、ジッタ、パケット損失を把握している

  • 通信先をオンプレミス、クラウド、SaaS、一般Webに分類している

  • 業務アプリごとの停止許容時間と優先順位を定義している

  • 帯域保証、SLA、計画停止、サービスクレジットを分けて比較している

  • 閉域性と暗号化を別のセキュリティ要件として扱っている

  • VPN鍵や装置証明書の発行、更新、失効手順を定義している

  • LBOにDNSフィルタリング、SWG、EDR、認証、ログ監視を組み合わせている

  • 主回線と副回線の局舎、管路、引込口、電源の共通点を把握している

  • 回線断と品質劣化の両方でフェイルオーバーを試験している

  • 自社と事業者の一次対応、現地対応、設定変更の担当を決めている

  • 旧回線、旧装置、暫定ルールを廃止する条件を決めている

このうち通信の可視化と障害時経路が未整理なら、製品比較より先に現状測定へ戻ります。要件を測定値で説明できるなら、専用線、IP-VPN、インターネットVPN、SD-WANを同じ条件で見積もり、限定拠点の検証へ進みます。

自社の業務要件に応じた適正なWAN通信方式の選定フロー

▲ 自社の業務要件に応じた適正なWAN通信方式の選定フロー

よくある質問

WANとLANの違いやSD-WANの必要性について、選定時に生じやすい疑問へ簡潔に回答します。

Q:WANとは何ですか?

A:WANとは、本社、支社、店舗、工場、データセンター、クラウドなど、離れた場所のネットワークを接続する広域通信網です。通信事業者の閉域網、インターネット、専用線などを利用して構築します。

Q:LANとWANの最大の違いは何ですか?

A:LANは建物や敷地内などの限定された範囲、WANは離れた拠点間を接続するネットワークです。WANでは通信事業者の設備を利用する場合が多く、契約上の責任分界点と継続的な回線費が加わります。

Q:WANとインターネットは同じですか?

A:同じではありません。インターネットはWANを構築するために利用できる公衆網の一つであり、企業WANには専用線やIP-VPNなど、インターネットを経由しない方式もあります。

Q:VPNとWANの違いは何ですか?

A:WANは離れたネットワークをつなぐ全体の仕組みで、VPNはその上に仮想的な専用経路を作る技術です。インターネットVPNはWANの接続方式の一つです。

Q:SaaSを利用する企業にはSD-WANが必須ですか?

A:必須ではありません。本社経由で混雑しているならSD-WANによるLBOが候補になりますが、拠点ファイアウォールやSSEでも直接接続を構成できます。既存回線の品質が足りているなら、WANを維持してセキュリティだけを追加する方法もあります。

Q:閉域網なら通信を暗号化しなくても安全ですか?

A:閉域性と暗号化は別の対策です。契約上の分離方式、扱う情報、監査基準を照合し、通信内容の暗号化が条件なら閉域網の上でもIPsecなどを利用します。

まとめ

WANは離れたLANやクラウドを結ぶ仕組みであり、専用線、IP-VPN、インターネットVPN、SD-WANにはそれぞれ異なる品質、責任分界、コスト構造があります。SD-WANを選ぶ場合も、回線品質、暗号化と鍵管理、冗長経路、LBO後のDNSフィルタリング・SWG・EDR、運用担当をセットで設計します。

明日からの最初の一歩は、繁忙時間帯の通信量と遅延を拠点・アプリケーション別に測り、現在の契約、SLA、責任分界点と並べることです。測定値と停止許容時間を整理できれば、方式名や従業員数に頼らず、自社の業務条件に合うWANを比較できます。

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監修

Admina Team

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