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最終更新日
2026/02/17
情報資産の保護が経営の最優先事項となった現代において、ISO/IEC 27001の重要性はかつてないほど高まっています。本記事では、情シス担当者や責任者が知っておくべきISMSの基礎知識から、2022年改訂版への具体的な対応策、運用を効率化する実務上のテクニックまでを専門家の視点で詳しく解説します。
ISO/IEC 27001とは
ISO/IEC 27001は、組織が情報を安全に管理するための仕組みであるISMSの構築と運用に関する要求事項を定めた国際規格です。
規格の概要とISMSの基本概念
ISO/IEC 27001は、情報の機密性、完全性、可用性の3要素をバランスよく維持し、継続的に改善するためのフレームワークを提供します。
情報セキュリティマネジメントシステム、略してISMSと呼ばれるこの仕組みは、特定の製品や技術の導入だけを指すものではありません。組織全体のルール作り、リスク評価、従業員教育といった「マネジメント」の側面を重視しています。日本ではこの国際規格を日本語に翻訳したJIS Q 27001が国内規格として普及しており、内容はISO規格と完全に一致しています。情シス担当者は、この規格を「セキュリティの底上げを図るための共通言語」として活用することが求められます。
認証制度の仕組みと有効期間
ISMS認証は、組織のセキュリティ体制がISO/IEC 27001の要求事項に適合していることを第三者機関が証明する制度です。
認証を取得・維持するためには、年に1回の維持審査と、3年に1回の更新審査をクリアしなければなりません。この仕組みにより、組織はセキュリティ対策を一時的な取り組みで終わらせず、PDCAサイクルを回して常に最新の脅威に対応する体制を維持できます。特に法人向けビジネスを展開する企業にとっては、信頼性を証明する強力な武器となります。
ISO/IEC 27001とISMSの違いは何?
ISO/IEC 27001は「達成すべき基準を記したルールブック」であり、ISMSは「そのルールに従って組織が構築した管理体制」そのものを指します。
規格とシステムの役割の違い
ISO/IEC 27001が守るべきガイドラインであるのに対し、ISMSは現場で実際に動いている運用ルールやプロセスを意味します。
実務上の会話では両者が混同されることも多いですが、厳密には「規格」と「システム」という明確な区別があります。情シスが「ISMSを構築する」と言う場合は、ISO/IEC 27001という手本を参考にしながら、自社に最適なセキュリティ運用フローを作り上げる作業を指します。
プライバシーマークとの明確な差
ISMSが組織内のあらゆる情報資産を保護対象とするのに対し、プライバシーマークは個人情報の保護に特化した日本独自の認定制度です。
ISMSとプライバシーマークの主な違いは、その対象範囲と柔軟性にあります。
項目 | ISMS(ISO/IEC 27001) | プライバシーマーク(Pマーク) |
|---|---|---|
保護対象 | 企業秘密、技術情報、個人情報など全般 | 個人情報のみ |
適用範囲 | 組織全体または特定の部門を選択可能 | 法人単位(全社)が必須 |
審査基準 | リスクに応じた柔軟な対策が可能 | 法令やJIS規格への厳格な準拠が必要 |
有効範囲 | 国際的に通用する | 日本国内に限定される |
ITインフラ全般を管理する情シスにとっては、サーバーの構成管理やネットワークセキュリティまでを包括的にカバーできるISO/IEC 27001の方が、実務との親和性が高いと言えます。
情シスがISO/IEC 27001を導入すべき3つの理由
情シスがISMSを導入することは、属人的な管理を排除し、組織全体で標準化された強固なセキュリティガバナンスを構築するために不可欠です。
セキュリティ対策の標準化と属人化の解消
ISMSの導入により、担当者のスキルや経験に依存していたセキュリティ運用を、組織的な標準プロセスへと昇格させることができます。
多くの情シス現場では、特定の担当者だけが把握している「暗黙の了解」でセキュリティが保たれているケースが少なくありません。ISO/IEC 27001の要求事項に従ってルールを文書化し、定期的な監査を行うことで、誰が担当しても一定水準の安全性を確保できる体制が整います。これは、担当者の交代や組織拡大の際に大きなメリットとなります。
対外的な信頼獲得と営業活動の効率化
認証を取得していることは、セキュリティに関する客観的な信頼の証となり、新規取引や官公庁案件の受注をスムーズにします。
昨今のサプライチェーン攻撃対策として、取引先から詳細なセキュリティチェックシートの提出を求められる機会が増えています。認証を取得していれば、これらの膨大な質問への回答を簡略化できる場合が多く、情シスの回答工数を大幅に削減できます。また、顧客に対して「国際基準をクリアしている」と明示できるため、競合他社との差別化にもつながります。
ITリスクの可視化による投資判断の最適化
リスクアセスメントの実施により、自社のIT環境に潜む弱点を数値化・客観化し、経営層への予算申請を論理的に行えるようになります。
情シスが「最新のファイアウォールが必要だ」と主張しても、経営層にはその必要性が伝わりにくいものです。ISMSの枠組みで「この資産にはこれだけのリスクがあり、対策しない場合の損失はこの程度である」と示すことで、投資の優先順位について合意形成がしやすくなります。ただし、過度なルール化は業務効率を下げるというデメリットもあるため、現場の利便性とのバランスを保つ設計が重要です。
2022年改訂版における主要な変更点と対策
2022年の改訂では、クラウドサービスの利用拡大やサイバー攻撃の高度化に対応するため、管理策の構成が抜本的に見直されました。
管理策の再編と4つの新しいカテゴリ
旧版の114項目あった管理策は、現代のビジネス実態に合わせて93項目に整理され、4つの属性に分類されました。
組織的管理策:方針の策定や資産の管理など
人的管理策:教育や退職時の手続きなど
物理的管理策:入退室管理や機器の保護など
技術的管理策:アクセス制御や暗号化など
情シスとしては、この新しい分類に基づいて自社の管理規定をマッピングし直す必要があります。多くの項目は統合されていますが、内容が薄まったわけではなく、より包括的な対応が求められるようになっています。
新しく追加された11の管理策への対応
最新版では、これまでの規格にはなかった現代的なIT環境に対応する11個の管理策が追加されています。
新規追加された11の管理策
脅威インテリジェンス:最新の脆弱性情報や攻撃トレンドを収集し、対策に反映する。
クラウドサービスの利用における情報セキュリティ:利用するSaaSやIaaSの設定、責任分界点を明確にする。
ICTの事業継続に向けた準備:災害やシステム障害からの復旧計画を策定し、テストを行う。
物理的セキュリティの監視:監視カメラやアラームシステムなどで、物理的なセキュリティを監視する。
構成管理:サーバーやネットワーク機器の標準設定値を維持し、不正な変更を防ぐ。
情報の削除:不要になった情報を安全に削除するための手順を確立する。
データマスキング:テスト環境などで個人情報や機密情報を加工して保護する。
データ漏洩防止:ネットワーク、モバイルデバイス、リムーバブルメディアなどからのデータ漏洩を防止する。
監視活動:ネットワークやシステムの異常な動作を継続的に監視する。
Webフィルタリング:悪意のあるWebサイトへのアクセスを制限する。
セキュアコーディング:ソフトウェア開発において安全なコーディング原則を確立する。
特に「クラウドサービスの管理」「構成管理」「脅威インテリジェンス」は、モダンな情シス業務の核心部分です。これらをISMSの枠組みに取り込むことで、運用の実態と規格対応を一致させることができます。
認証取得と運用のための5つの実務ステップ
ISMSの構築を成功させるためには、形骸化を防ぐための現実的なルール作りと、着実なステップを踏んだ導入が必要です。
STEP 1:適用範囲の定義と体制構築
まずは「どの拠点の、どの業務をISMSの対象にするか」を決定し、推進チームを立ち上げます。
最初から全社・全拠点を対象にすると情シスの負担が大きすぎるため、まずは本社や特定のサービス部門から開始し、段階的に拡大していくアプローチも有効です。この際、トップマネジメントの関与を明確にすることが、社内の協力体制を得るために不可欠です。
STEP 2:情報資産の洗い出しとリスクアセスメント
組織が保有するサーバー、PC、ソフトウェア、データなどをリストアップし、それぞれのリスクを評価します。
リスク評価の観点
機密性:外部に漏れた際の影響は?
完全性:改ざんされた際の影響は?
可用性:止まった際の影響は?
これらの観点から、優先的に対策すべきリスクを特定します。すべてを完璧にするのではなく、許容できるリスクを明確にすることが実務上のポイントです。
STEP 3:文書化と管理規定の作成
規格の要求事項に基づき、自社の実情に即した情報セキュリティ基本方針や各種手順書を作成します。
作成すべき主な文書
情報セキュリティ基本方針
リスクアセスメント手順書
適用宣言書
各種運用手順書(パスワード、バックアップなど)
文書は「審査に通るため」ではなく「現場が迷わないため」に作成します。可能な限り図解やフローチャートを用い、平易な表現を心がけましょう。
STEP 4:従業員教育とルールの運用
作成したルールを社内に周知徹底し、実際の業務で運用を開始します。
情シスは、全従業員を対象としたeラーニングや説明会を実施します。また、日々の運用記録、いわゆるエビデンスを確実に残すことが重要です。ログの保管やチェックリストの記入が漏れると、審査で「不適合」とされる原因になります。
STEP 5:内部監査とマネジメントレビュー
自分たちで運用状況をチェックする内部監査を行い、その結果を経営層に報告して改善の指示を受けます。
内部監査は、他部署の担当者が行うか、外部のコンサルタントを起用するのが一般的です。自分たちの不備を自ら見つけ、修正するプロセスがあることを示すことが、外部審査をクリアするための条件となります。
情シスの負担を軽減するISMS運用の効率化テクニック
ISMS運用が情シスの「重荷」にならないよう、テクノロジーを活用して事務作業を自動化・簡略化することが持続可能な運用のコツです。
クラウド型ISMS管理ツールの導入
Excelによる手作業の管理を辞め、専用のISMS管理ツールを導入することで、文書管理やリスク評価の工数を大幅に削減できます。
専用ツール(例:SecureNaviや各社ISMS支援SaaS)を活用すれば、最新規格への対応状況が自動で可視化され、タスクのリマインドも自動化されます。これにより、情シス担当者は「書類の整理」ではなく「セキュリティの強化」という本来の業務に集中できるようになります。
既存のIT資産管理システムとの連携
資産目録やPCのパッチ適用状況などは、既に導入している資産管理ツールのデータをエビデンスとして直接活用しましょう。
ISMSのために別途台帳を作るのではなく、既存のツールの出力結果をそのまま審査書類として流用できる設計にします。これにより、二重管理を防ぎ、情報の整合性を保つことができます。
組織の価値を高めるセキュリティマネジメントの実現
ISO/IEC 27001は、単なる認証取得の手段ではなく、組織のITガバナンスを盤石にするための優れた道具です。従来の「形式的なISMS」から、クラウドやサイバー脅威に対応した「実効性のあるISMS」へと進化させることが、情シス担当者に期待される役割です。文書作成の負担に翻弄されるのではなく、テクノロジーを駆使して効率的に運用することで、守りのセキュリティから攻めのIT経営へと貢献できるはずです。
まずは「自社のクラウドサービス利用ルールが、最新のISO/IEC 27001:2022が求める基準とどの程度ズレているか」を、主要な5つのSaaSの設定状況から確認してみてください。この小さなギャップ分析が、組織全体のセキュリティレベルを底上げする大きな一歩となります。
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監修
Admina Team
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