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Microsoft Entra IDは、Microsoft 365、Azure、SaaS、業務アプリケーションへのアクセスを一元管理するためのクラウド型ID・アクセス管理基盤です。旧称はAzure Active Directoryですが、単なる名称変更ではなく、IDを起点にゼロトラストを実装する製品群へと役割が広がっています。
特に、Microsoft 365を利用している企業では「条件付きアクセスをどこまで適用するか」「オンプレミスのActive Directoryをいつまで残すか」「P1とP2のどちらが自社に必要か」が導入判断の分かれ目になります。オンプレミスADは、Kerberosやファイルサーバーへの依存がある間は維持しながらEntra IDと共存させるハイブリッド構成が現実的です。P1とP2の使い分けは、条件付きアクセスとSSPRまでで足りるか、サインインリスクや特権ID管理まで必要かによって変わります。2026年はパスキーを中心としたフィッシング耐性MFAへの移行や、IDとネットワークアクセスを統合するMicrosoft Entra Suiteの検討も避けられません。
本記事では、クラウド移行やゼロトラスト化を進める情シス部門を対象に、機能紹介だけで終わらせず、ライセンス選定、構築時の落とし穴、運用開始前に確認する項目まで実務目線で整理します。

Microsoft Entra IDとは
本記事のポイント
Microsoft Entra IDは、クラウドやハイブリッド環境におけるゼロトラストを実現する包括的なID・アクセス管理基盤です。
基本的なSSOと認証機能から始め、条件付きアクセス、特権ID管理、IDガバナンスへ段階的に拡張できます。
既存のActive Directoryとは役割と技術が異なり、GPOをそのまま移行する製品ではありません。
パスキー移行、緊急アクセス用アカウント、同期対象の整理を先に設計すると、導入後の障害を減らせます。
Microsoft Entra IDは、クラウドやハイブリッド環境におけるゼロトラストを実現する包括的なID・アクセス管理基盤です。
Microsoft Entra IDは「エントラ アイディー」と読みます。MicrosoftはAzure Active DirectoryをMicrosoft Entra IDへ改称し、ID管理、認証、アクセス制御、外部ユーザー管理をMicrosoft Entra製品群として整理しています。従業員、取引先、顧客、アプリケーション、さらにAIエージェントまで、誰または何がどのリソースへアクセスするかを管理する点が中核です。
従来のネットワーク境界型セキュリティでは、社内ネットワークに接続していること自体が信頼の根拠になりがちでした。一方でEntra IDでは、ユーザー、端末の準拠状態、サインイン場所、アプリ、検知されたリスクを条件として評価します。社外からのアクセスであっても、本人性と端末状態を確認してから許可する仕組みです。
Microsoftの公式ドキュメントでは、Entra IDをクラウドベースのIDおよびアクセス管理サービスとして説明しています。Microsoft 365やAzureだけでなく、SAML、OAuth 2.0、OpenID Connectに対応する多くのSaaSや自社アプリケーションとの連携基盤にもなります。Microsoft LearnのMicrosoft Entra概要では、製品群と主要サービスの位置付けを確認できます。
Microsoft Entraファミリの構成
Entra IDは製品群の中心ですが、すべての機能を単体で提供するわけではありません。社内ユーザーの認証基盤はEntra ID、顧客・外部ユーザー向けのID基盤はEntra External ID、検証可能な資格情報の発行・検証はEntra Verified ID、アクセス権の棚卸しやライフサイクル管理はEntra ID Governanceが担います。
また、Private Accessはオンプレミスやプライベートアプリケーションへ安全に接続するZTNA機能、Internet Accessはインターネット利用を制御するセキュリティ機能です。VPN、ID、Webアクセス制御を別々に管理している企業では、どのアクセス経路を統合対象にするかを整理すると、Microsoft Entra Suiteの適用範囲を判断しやすくなります。
クラウド環境におけるID・アクセス管理の全体像を把握したい方は、クラウド型ID管理サービス(IDaaS)の機能や導入メリットの解説もご覧ください。
Microsoft Entra IDの主要機能
Microsoft Entra IDの主要機能は、認証を統一し、アクセス時の条件を評価し、過剰な権限を継続的に抑えることです。
導入初期はSSOとMFAから始めるケースが多いものの、ゼロトラストを成立させるには端末管理、アクセス条件、特権権限、ログ分析を連動させる必要があります。機能ごとに目的を分けて設計すると、ポリシーが複雑化しにくくなります。
シングルサインオン機能
シングルサインオン(SSO)は、一度の認証で複数のSaaSや業務アプリケーションへアクセスできる仕組みです。ユーザーがサービスごとにパスワードを作成・保管する運用を減らし、退職時には元のIDを無効化することで連携先アプリの利用停止にもつなげられます。
ただし、SSO連携済みアプリでもローカル管理者アカウントや共有アカウントが残っていれば統制は不完全です。SaaS管理台帳に「Entra ID連携の有無」「ローカルアカウントの有無」「退職時の停止方法」を記録し、SSO対象外のサービスを可視化します。
条件付きアクセス機能
条件付きアクセスは、ユーザー、グループ、対象アプリ、端末の準拠状態、場所、サインインリスクなどの条件に応じて、MFAの要求、アクセスの許可、アクセス拒否を決める機能です。P1以上で利用できます。
たとえば、管理者ロールの利用時にはフィッシング耐性MFAを要求し、未管理端末からのダウンロードは制限し、国外からの異常なサインインはブロックするといった制御を組み合わせます。Microsoftは、展開前に影響を確認できるレポート専用モードを提供しています。条件付きアクセスのレポート専用モードに関するMicrosoft Learnを利用し、対象ユーザーと業務アプリへの影響を記録してから有効化します。
多要素認証とパスキー
多要素認証は、パスワードだけに依存せず、Authenticatorアプリ、セキュリティキー、パスキーなどを組み合わせて本人確認を行う機能です。SMSや音声通話は導入しやすい一方、SIMスワップやリアルタイムフィッシングに対してフィッシング耐性を持ちません。
MicrosoftはEntra IDの認証方法において、パスキーを含むフィッシング耐性の高い方式へ移行を進めています。Microsoftの公式発表によれば、Microsoft提供のSMSおよび音声認証機能は2027年2月に廃止予定です(SMS/音声認証の変更に関する公式アナウンス)。ただし対象テナント、地域、認証方法ポリシーによって適用時期が異なる場合があります。認証方法ポリシーの公式ドキュメントで、自社テナントに許可されている方式と移行通知を確認すると、対応が必要な認証方式と移行先の候補を把握できます。パスキーを利用できる端末が十分にない場合は、まずAuthenticatorアプリとFIDO2セキュリティキーを併用し、端末更新に合わせてパスキー比率を高めます。
Identity Protectionと特権ID管理
Entra ID P2で利用できるIdentity Protectionは、漏えいした資格情報、匿名IPアドレス、通常と異なる場所からのサインインなどをリスクとして検出し、条件付きアクセスと組み合わせて追加認証やブロックを実行します。PIMは、管理者権限を常時付与せず、必要な時間だけ昇格させる特権ID管理機能です。
グローバル管理者を恒久的に多数へ付与すると、1アカウントの侵害がテナント全体の侵害につながります。日常業務用アカウントと管理作業用アカウントを分離し、管理作業が月数回ならPIMによる時間制限付き昇格を設定する構成が適しています。
Copilot for SecurityとAIエージェントID
Microsoft Copilot for Securityとの連携では、サインインログやリスク情報を自然言語で調査し、過剰な権限を持つユーザーやポリシーの影響を把握しやすくなります。AIの回答だけでアクセス制御を変更するのではなく、変更候補をレポート専用モードで評価する運用にすると、誤ったポリシー変更を抑えられます。
MicrosoftはAIエージェントのIDとアクセス管理を扱うMicrosoft Entra Agent IDを発表しており、2025年5月時点ではプレビューを含む段階的展開が進んでいます。提供形態・対象ライセンス・展開範囲はその後も変更される可能性があります。AIエージェントに人間の管理者権限を直接付与するのではなく、エージェントごとのID、許可するデータ、実行履歴を分離する考え方です。正式提供かプレビューか、対象ライセンスかは変化が速く、Microsoft Entra公式ドキュメントの製品状態ページで確認した結果をもとに、導入可否を判断します。
ユーザー追加・削除の自動化を検討している場合は、アカウント運用の自動化を実現するプロビジョニングの基礎知識を参考に運用の仕組みを整理しましょう。
▲ 条件付きアクセスにおける認証・評価・制御の仕組み
Microsoft Entra IDのライセンスプランと料金体系
Microsoft Entra IDのライセンスは、基本認証だけならFree、条件付きアクセスまで必要ならP1、リスク検知と特権ID管理まで必要ならP2を基準に選びます。
料金は契約通貨、購入チャネル、年契約か月契約かで変動するため、日本円の固定額を記事内で断定するのは適切ではありません。以下はMicrosoftの米国公式価格ページに掲載される参考価格帯であり、国内の実際の見積額は契約管理画面または販売パートナーの見積もりで判断します。
プラン | 主な機能 | 公式参考価格帯 | 適した利用条件 |
|---|---|---|---|
Microsoft Entra ID Free | 基本的なユーザー管理、SSO、標準的なMFA | 無償 | クラウドサービスの基本認証を整備する段階 |
Microsoft Entra ID P1 | 条件付きアクセス、SSPR、グループ管理、ハイブリッドID | 1ユーザーあたり月額6米ドル前後 | 端末・場所・アプリごとにアクセス条件を変えたい場合 |
Microsoft Entra ID P2 | Identity Protection、PIM、アクセスレビュー | 1ユーザーあたり月額9米ドル前後 | 特権IDやサインインリスクを継続監視する場合 |
Microsoft Entra Suite | P1・P2相当機能に加え、Private Access、Internet Access、ID Governanceなど | 1ユーザーあたり月額12米ドル前後 | VPN代替やIDガバナンスまで一体で設計する場合 |
MicrosoftはMicrosoft Entraの公式価格ページで、製品別の価格と含まれる機能を公開しています。Microsoft 365 E3にはEntra ID P1、Microsoft 365 E5にはEntra ID P2相当の機能が含まれる構成がありますが、契約時期やSKUによって差があるため、保有ライセンスのサービス説明を確認してから追加購入の可否を判断します。
Freeプランの利用範囲
Freeは、Microsoft 365やAzureの利用開始時にID基盤を整える入口になります。ただし、条件付きアクセスを使った詳細な制御はP1以上が前提です。Security Defaultsを有効にして最低限のMFAを展開する方法はありますが、特定の管理者、アプリ、場所だけを細かく除外・適用する設計には向きません。
P1プランの選定基準
P1は、クラウド利用を前提にアクセス制御を標準化したい企業の中心的な選択肢です。管理端末以外からのアクセスにMFAを要求する、特定アプリへのアクセスを準拠済み端末に限定する、SSPRでパスワード問い合わせを減らす、といった施策を実装できます。
情シスが月100件のパスワード忘れ・アカウントロック対応を受けており、SSPRによって50〜80%をセルフサービス化できるなら、月50〜80件を削減できる試算になります。実際の削減率は本人確認方法、利用者教育、既存の問い合わせ分類で変わるため、導入前に3か月分のチケット件数を分類し、SSPR対象外の問い合わせを分けて算定します。
P2プランとSuiteの選定基準
P2は、管理者権限、機密データ、海外拠点、委託先アクセスなど、高リスクなIDを扱う企業に適します。サインインリスクを基にした制御や、特権権限の一時昇格を要件に含めるならP2を選びます。
一方、VPN機器の更新やオンプレミスアプリへのリモートアクセスも課題なら、Suiteを比較対象に含めます。Private Accessで置き換えたいアプリがHTTP/S以外を含む場合、既存VPNの通信要件、拠点回線、端末管理状態を棚卸しし、対象アプリを限定した検証で接続品質と監査ログを確認できれば、段階移行へ進みます。
▲ 自社のセキュリティ要件に合わせたEntra IDライセンス選択フロー
Microsoft Entra IDとActive Directoryの違いとハイブリッド構成
Microsoft Entra IDとActive Directoryは補完関係にあり、オンプレミスADをそのままクラウドへ移す製品ではありません。
Active Directoryは社内ネットワーク、Windows端末、ファイルサーバー、プリンターなどを管理するディレクトリサービスです。Entra IDはクラウドアプリケーションやモバイル端末からのアクセスを、Web標準の認証プロトコルで管理します。名前が似ているため混同されやすいものの、運用設計では明確に役割を分けます。
比較項目 | Microsoft Entra ID | Active Directory |
|---|---|---|
主な対象 | クラウドアプリ、SaaS、モバイル、リモートアクセス | 社内PC、サーバー、ファイル共有、社内ネットワーク |
主な認証方式 | SAML、OAuth 2.0、OpenID Connect | Kerberos、NTLM、LDAP |
端末管理の考え方 | Intuneなどと連携するモダン管理 | GPOを使うドメイン参加端末の管理 |
アクセス制御 | ユーザー、端末、場所、リスクに応じた条件付きアクセス | ネットワークとドメイン権限を中心とした制御 |
基盤運用 | Microsoftが提供するクラウドサービス | ドメインコントローラーの構築・更新・監視が必要 |
オンプレミスのActive Directoryを利用している企業では、既存資産を一度に廃止する必要はありません。ファイルサーバーや古い業務アプリがKerberosやLDAPに依存している間は、ADを維持しながらEntra IDをクラウドアクセスの入口として使うハイブリッド構成が現実的です。
Microsoft Entra Connectによる同期
Microsoft Entra Connectは、オンプレミスADのユーザー、グループ、属性をEntra IDへ同期するための仕組みです。MicrosoftはEntra Connectの公式ドキュメントで、ハイブリッドIDの構成方式を説明しています。
代表的な認証方式はパスワードハッシュ同期とパススルー認証です。パスワードハッシュ同期は、オンプレミスADのパスワードハッシュから生成した値をクラウドに同期し、クラウド側で認証します。可用性を確保しやすく、クラウドサービス中心の企業に向きます。パススルー認証はオンプレミスのエージェントを介してADで認証するため、オンプレミス側の認証ポリシーを維持したい場合に選択肢になります。
同期対象とGPOの移行範囲
やってはいけないのは、退職者、検証用アカウント、使われていないグループまで無条件で同期することです。不要なオブジェクトがクラウド側に増えると、アクセスレビューや権限棚卸しの対象が膨らみ、誰がどの権限を持つかを追いにくくなります。同期前に対象OU、属性、退職者処理、グループ命名規則を決めます。
また、GPOはEntra IDへ直接移行できません。端末の設定をクラウド管理へ移す場合は、Intuneの構成プロファイル、セキュリティベースライン、アプリ配布へ設定を読み替えます。GPOの一覧を出力し、「セキュリティ設定」「ネットワーク設定」「レガシーアプリ依存」「廃止候補」に分類できれば、移行対象と残置対象を分けられます。
オンプレミス環境におけるディレクトリサービスの役割について詳しく知りたい方は、Active Directoryの具体的な機能や運用方法をあわせてご確認ください。
▲ Microsoft Entra IDとActive Directoryの役割・技術比較
Microsoft Entra IDの導入メリットとコスト削減効果
Microsoft Entra IDの導入効果は、認証強化だけでなく、ID運用の標準化、問い合わせ削減、VPNやサーバー運用の見直しにあります。
ただし、ライセンス費用だけを削減効果と比較しても判断を誤ります。現状のパスワード問い合わせ、入退社処理、VPN機器の保守、監査対応、特権IDの管理時間を可視化し、削減可能な工数と残る作業を分けて評価します。
セルフサービスによる問い合わせ削減
SSPRを導入すると、利用者が本人確認を行ったうえでパスワードのリセットやアカウントロック解除を実施できます。情シスが毎回本人確認、リセット、復旧確認を行う運用から切り替えられるため、定型的なヘルプデスク対応を減らせます。
業界調査やIAMベンダーのベストプラクティスでは、SSPR導入によりパスワード関連問い合わせを50〜80%削減できる目安が広く示されています。この数字を自社へそのまま当てはめるのではなく、月間チケット数、1件あたりの平均対応時間、利用者が自己解決できない例外を使って試算します。たとえば月80件、1件15分なら月20時間の対応です。60%を自己解決に移せれば月12時間を、端末交換や入社対応など優先度の高い業務へ振り替えられます。
インフラ運用とアクセス経路の最適化
クラウド認証へ移行しても、すべてのドメインコントローラーやVPNが直ちに不要になるわけではありません。しかし、クラウド専用端末、SaaS、Azure上のアプリケーションを対象にすれば、オンプレミス設備への依存を段階的に減らせます。サーバー更新費、VPN機器の保守契約、証明書更新、拠点開設時の機器設置といった費目を、アプリ単位で見直せます。
Forrester ConsultingはMicrosoftの委託を受けた「The Total Economic Impact of Microsoft Entra Suite」で、複合組織モデルにおける3年間のROIを131%と試算しています。この調査は実在企業の平均値ではなく、顧客インタビューを基にしたモデルであり、投資回収期間も組織の既存VPN、ライセンス、運用体制によって変わります。VPN更新予定があり、IDガバナンスやZTNAも同時に導入する企業では比較材料になりますが、SSOだけを導入する企業の費用対効果としては扱いません。レポートの前提条件や対象範囲は上記リンク先の原文で確認でき、自社の導入範囲がモデルと大きく異なる場合はROI試算も別途設定し直す必要があります。
監査対応と退職者アカウントの抑止
入退社、異動、委託先契約の終了時に、アカウント停止と権限削除が別々のSaaSで行われていると、退職者アカウントや不要な管理者権限が残ります。Entra IDを人事システムやSaaSプロビジョニングと連携すると、アカウント作成、グループ付与、無効化の流れを標準化できます。
監査で確認すべき対象が「どのシステムに存在するか」から「Entra IDのグループとログで追跡できるか」へ変わるため、証跡の収集経路も整理できます。連携できないSaaSは例外台帳へ残し、四半期ごとの棚卸し対象として管理します。
日本企業における導入事例と成果
国内企業の導入事例では、Entra IDを単独導入するのではなく、顧客ID、Azure Files、Intune、SSOと組み合わせて業務課題を解決しています。
以下の事例はMicrosoftカスタマーストーリー(microsoft.com/ja-jp/customers)および各社公開情報を基に整理したものです。原文はMicrosoftの事例ページで参照できます。導入成果は企業の既存環境や対象範囲に左右されるため、同じ数値の再現を前提にせず、課題と施策の対応関係を自社要件の検討材料として使います。
日本精工株式会社の顧客ID統合
業種・規模:製造業。グローバルで約1万8,000人規模のMicrosoft 365利用環境です。
導入時期:2024年公開(Microsoftカスタマーストーリーより)。
課題:顧客向けWebサービスごとにIDが分かれ、複数サービスを横断する利用者の利便性と管理負荷が課題でした。
施策:顧客ID基盤としてMicrosoft Entra External IDを導入し、社内のMicrosoft 365環境でもEntra IDを活用しました。
成果:利用者が1つのIDで複数のWebサービスやアプリケーションを横断利用できる構成を実現し、管理側は統一された画面で運用しやすくなりました。
この事例は、Entra IDが従業員向けの認証だけでなく、顧客向けサービスのID統合にも使えることを示しています。顧客IDを扱う場合は、従業員テナントと同じ権限設計を流用せず、顧客データ、同意取得、外部IDのライフサイクルを別途設計します。
ヒロセ通商株式会社のゼロトラストアクセス
業種・規模:金融・証券関連サービスを提供する企業です。
導入時期:Azure FilesとEntra IDを活用した事例として公開されています。
課題:海外拠点の増設に伴い、VPN機器の設置・保守、テレワーク時のファイルアクセス、BCP対応の負荷が課題でした。
施策:ファイルサーバーをAzure Filesへ移行し、Microsoft Entra IDによる認証とアクセス制御を実装しました。
成果:従来型VPN機器への依存をなくし、拠点新設時の機器設定工数とVPN運用コストを抑える構成へ移行しました。
VPNの廃止だけを先に目的化すると、ファイル共有、名前解決、端末認証、帯域要件で問題が起きます。ヒロセ通商のように対象業務をAzure Filesへ移し、認証方式をEntra IDに合わせて再設計することが、VPN代替を成立させる前提になります。
よしもとアドミニストレーションの端末統制
業種・規模:吉本興業グループの管理業務を担う企業で、約1,000人の社員が利用するIT環境です。
導入時期:ゼロトラスト化の取り組みとして公開された事例です。
課題:社外、モバイル、ハイブリッドワークで利用する端末から、クラウドサービスへ安全にアクセスさせる必要がありました。
施策:Microsoft Entra IDとMicrosoft Intuneを組み合わせ、IDと端末の状態を条件にアクセスを制御しました。
成果:境界防御型のネットワーク中心運用から移行し、場所に依存せずクラウドサービスを安全に利用できる環境を整備しました。
この構成では、Entra IDだけで完結させず、Intuneで端末の暗号化、OS更新、準拠状態を管理する点が重要です。端末の状態を判定できない場合は、条件付きアクセスで端末準拠を必須条件にしても意図した制御になりません。
導入・運用時の注意点とよくある失敗パターン
Microsoft Entra IDの導入で最も避けるべき障害は、条件付きアクセスの誤設定による管理者を含む全社ロックアウトです。
高いセキュリティ設定を短期間で全ユーザーへ適用すると、業務アプリ、共有端末、サービスアカウント、管理者アカウントが想定外に止まることがあります。導入は機能単位ではなく、例外、復旧手段、監視方法を含めて設計します。
ブレイクグラスアカウントの未準備
条件付きアクセスで「未準拠端末を拒否」「すべてのユーザーにMFAを必須」と設定した際、管理者自身も対象となり、設定を戻せなくなる事故があります。これを防ぐため、通常の条件付きアクセスから除外した緊急アクセス用アカウント、いわゆるブレイクグラスアカウントを最低2個用意します。
Microsoftは緊急アクセス用アカウントについて、通常利用を避け、強力な認証情報、監視、定期テストを行う構成を案内しています。Microsoft Learnの緊急アクセス用アカウント設計を基に、保管責任者、利用承認者、利用後の認証情報変更、テスト日を運用台帳へ記録します。
レガシー認証の放置
POP、IMAP、SMTP AUTH、古いOfficeクライアントなどのレガシー認証は、現代認証やMFAを回避する入口になり得ます。「古い複合機が使えなくなるため」と例外を残すと、その例外がパスワードスプレー攻撃の対象になります。
Microsoftはレガシー認証をブロックする条件付きアクセスポリシーを案内しています。レガシー認証をブロックする公式ガイドを参照し、サインインログで利用中のクライアントを洗い出します。代替方式へ移行できる機器は更新し、移行できない機器は専用アカウント、接続元IP、送信先を限定したうえで、廃止期限を台帳に設定します。
過剰同期と二重管理
オンプレミスADの全OUを同期すると、退職者、テストアカウント、利用されないグループまでEntra IDに複製されます。その結果、クラウド側のグループやライセンス付与が複雑になり、どちらを正とするかが不明確になります。
同期開始前に、IDの作成元、属性の更新元、停止の起点を決めます。人事システムを起点にできるなら、人事システムからAD、Entra ID、SaaSへ反映する流れを定義します。人事システムと連携できない場合は、ADを正とし、OUフィルタリングで同期範囲を限定します。
導入前チェックリスト
次の項目を満たしてから本番ポリシーを有効化すると、設定ミスによる停止を減らせます。
緊急アクセス用アカウントを2個作成し、通常の条件付きアクセスから除外します。
管理者、一般社員、外部ユーザー、サービスアカウントを分けて対象グループを作成します。
条件付きアクセスはレポート専用モードで最低1業務サイクルのログを確認します。
SSO対象アプリとレガシー認証を使う機器を台帳化します。
Entra Connectの同期対象OUと、退職者アカウントの停止手順を決めます。
パスキー、Authenticator、FIDO2キーのいずれを利用者へ提供するかを決め、利用できない端末の代替手段を用意します。
条件付きアクセスのログに業務影響が出なければ、少人数のパイロットグループから有効化します。影響が確認された場合は、例外を恒久化するのではなく、対象アプリの認証方式、端末管理、アカウント種別のどこに問題があるかを切り分けてから再試験します。
最小権限の原則に基づくアクセス制限や特権ID管理を安全に運用するには、RBAC(ロールベースアクセス制御)の設計例と運用の注意点を参考に権限モデルを整理しましょう。
よくある質問
Microsoft Entra IDの導入検討で多い質問を、ライセンス、認証、Active Directoryとの関係を中心に整理します。
MFA必須化とパスキー移行
Q:MFAを有効にすれば、SMS認証を使い続けても問題ありませんか?
A:SMS認証はパスワードだけの認証より安全ですが、フィッシングやSIMスワップへの耐性には限界があります。2027年2月予定のSMS・音声認証廃止への対応も見据え、パスキー、FIDO2セキュリティキー、Authenticatorアプリへ順番に移行します。
ライセンス選定
Q:P1とP2はどちらを選ぶべきですか?
A:端末や場所に応じた条件付きアクセス、SSPR、ハイブリッドIDが目的ならP1を基準にします。サインインリスクに応じた自動制御、PIM、アクセスレビューが必要な管理者や機密業務の対象者にはP2を割り当てます。
オンプレミスADとの併用
Q:Entra IDを導入すると、Active Directoryはすぐに不要になりますか?
A:Kerberos認証のファイルサーバーやGPOに依存する端末がある場合、Active Directoryは当面必要です。Entra Connectで同期し、クラウドアプリと新規端末からEntra ID中心へ移行することで、業務を止めずに依存範囲を減らせます。
無料版の利用範囲
Q:Freeプランだけでゼロトラストを実現できますか?
A:Freeでも基本的なSSOと認証は始められますが、ユーザー・端末・場所ごとの詳細な条件付きアクセスにはP1以上が必要です。管理対象端末以外を制限する、管理者だけに強いMFAを課すといった運用を行うなら、P1を前提に設計します。
フィッシング耐性の高いパスワードレス認証へ移行するためには、パスキーの仕組みや設定方法およびメリットを理解しておくことが重要です。
まとめ
Microsoft Entra ID導入に向けた最初の一歩
Microsoft Entra IDは、クラウドサービスのログイン管理を便利にするだけでなく、ゼロトラストの判断をID中心へ移す基盤です。まずは、自社テナントで管理者アカウント、MFA方式、レガシー認証、オンプレミスADとの同期範囲を棚卸しします。
次に、緊急アクセス用アカウントを準備したうえで、条件付きアクセスをレポート専用モードで検証します。パスワード問い合わせが多い企業はSSPR、特権IDの管理が課題ならP2、VPN更新とオンプレミスアプリへのアクセス改善が課題ならSuiteを比較対象にします。最初から全社へ展開せず、管理者と少人数のパイロットグループでログと業務影響を確認してから適用範囲を広げることが、停止リスクを抑えた導入手順です。
本記事の内容に誤り等がございましたら、こちらからご連絡ください。
監修
Admina Team
情シス業務に関するお役立ち情報をマネーフォワード Adminaが提供します。
SaaS・アカウント・デバイスの管理を自動化し、IT資産の可視化とセキュリティ統制を実現。
従業員の入退社対応や棚卸し作業の工数を削減し、情報システム部門の運用負荷を大幅に軽減します。
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