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スニッフィング(sniffing)は、ネットワーク上の通信を密かに傍受するサイバー攻撃だ。気づかないまま認証情報や機密データが盗まれ、そのまま数週間〜数年間放置されるケースも珍しくない。本記事では、スナッフィングとも呼ばれる本攻撃の高度化する手口や、企業を揺るがす被害事例から、自社を守る実践的な対策まで専門的な視点から分かりやすく解説する。
この記事でわかること
スニッフィング(sniffing)の基本的な仕組みと、パッシブ・アクティブの違い
SSLストリッピング・AIへのサイドチャネル攻撃・Evil Twinなど、高度化する最新の手口
国内外の被害事例をもとにした経営リスクの実態
HSTSの実装やNDRによる継続監視など、具体的な多層防御の手法
スニッフィング(パケット盗聴)とは
スニッフィングとは、ネットワーク上を流れるデータを監視し、情報を密かに抜き取るパケット盗聴の手法です。
インターネットや社内ネットワークでやり取りされるメール、ファイル、動画などのすべてのデータは、「パケット」と呼ばれる細かな単位に分割されて送受信されています。スニッフィングは、このパケットをWiresharkのようなネットワーク解析ツール(パケットスニッファ)を用いて捕獲し、中身を解析して情報を盗み出すサイバー攻撃です。本来、これらのツールはネットワーク管理者が障害の調査やトラフィック分析に用いる正当なツールですが、攻撃者によって悪用されています。
受動的スニッフィングと能動的スニッフィングの違い
スニッフィングのやり方は、大きく分けて「パッシブ(受動的)スニッフィング」と「アクティブ(能動的)スニッフィング」の2種類に分類されます。パッシブスニッフィングは、同一のハブ(リピーターハブ)などで構成されたネットワーク内において、ただ静かにデータを傍受するだけのシンプルな方法です。一方、現在主流となっているアクティブスニッフィングは、スイッチングハブ環境下などで、ネットワークに偽のパケットを能動的に送り込んで通信経路を改ざんし、標的のデータを強制的に自分を経由させることで盗み出す攻撃です。
スプーフィング(なりすまし)との関係とMitMへの発展
スニッフィングと混同されやすい用語に「スプーフィング」があります。スプーフィングは「なりすまし」を意味し、送信元のIPアドレスやMACアドレスを偽装する行為を指します。攻撃者は、まずスプーフィングによって正規のルーターや端末になりすまし、通信の流れを自らに向けさせます。その経由する通信をスニッフィング(傍受)することで、二者間の通信に割り込む「中間者攻撃(MitM:Man-in-the-Middle attack)」へと発展させるのが一般的なプロセスです。
▲ 受動的スニッフィングと能動的スニッフィングの違い
高度化するスニッフィングのやり方・手口
現代の攻撃者は、単純な平文傍受から暗号化通信の隙を突く高度な手口へとシフトしています。
Webサイトの常時SSL化が進んだ現在、攻撃者は旧来の手法にとどまらず、新しい技術を用いたスニッフィングのやり方を開拓しています。防御の観点から知っておくべき代表的な手口を解説します。
SSLストリッピング(HTTPSダウングレード攻撃)
SSLストリッピングは、ユーザーが安全なHTTPS接続を確立しようとするタイミングに介入し、強制的に暗号化されていないHTTP接続へダウングレードさせる攻撃です。攻撃者が中間者(MitM)となり、ユーザーと攻撃者間はHTTPの平文で通信させ、攻撃者とサーバー間のみHTTPSで通信を行います。これにより、ユーザーが入力したIDや各種情報が攻撃者の元で平文としてスニッフィングされてしまいます。
AI(LLM)へのパケットベースのサイドチャネル攻撃
2024年に研究者によって実証され話題となったのが、生成AI(LLM)のチャットセッションに対するサイドチャネル攻撃です。これは、通信が強力に暗号化されているにもかかわらず、ネットワークパケットの「長さ」や「送信タイミング」といったメタデータを傍受・解析することで、AIが生成しているテキストのトークン内容を推測してしまう手口です。データそのものが暗号化されていても、暗号化パケットのサイズの変化パターンから平文が復元されるリスクが示され、Cloudflare等のプロバイダーがパディングによる緩和策を実装する対応が取られました。※本研究の詳細については公開論文および各プロバイダーの公式発表を参照してください。
悪魔の双子(Evil Twin)とARPポイズニング
Wi-Fi環境を狙った手口として依然として猛威を振るっているのが、「悪魔の双子(Evil Twin)」と呼ばれる偽装アクセスポイントの設置です。カフェなどの正規のフリーWi-Fiと全く同じSSIDを持つ偽のWi-Fiを立ち上げ、ユーザーを接続させて全ての通信を傍受します。また、企業内LANにおいては、ARPポイズニング(ARPスプーフィング)を用いてIPアドレスとMACアドレスの紐付け(ARPキャッシュ)を不正に書き換え、ネットワーク内の全トラフィックを攻撃者の端末を経由させることで情報を窃取します。
▲ SSLストリッピング(HTTPSダウングレード攻撃)の仕組み
スニッフィングによる具体的な被害事例と経営リスク
内部ネットワークへの侵入を許した結果、長期間にわたり通信を傍受される大規模な被害が発生しています。
スニッフィングによってパスワードなどの認証情報や機密データが窃取された場合、企業は壊滅的なダメージを受けます。ここでは、近年発生した具体的な被害事例と数値データをもとに、その深刻な経営リスクを解説します。
SKテレコムの事例:長期潜伏と平文保存の代償
韓国の通信大手SKテレコムのインシデントでは、約2,700万件に上るモバイル加入者の機密データ(USIM関連情報やIMEIなど)が流出した可能性が発覚しました。調査の結果、同社のシステムには「BPFDoor」と呼ばれる高度なパケットスニッファ(通信傍受マルウェア)が約3年間にわたって潜伏していました。極めて機密性の高い情報がデータベースに暗号化されずに保存され、内部ネットワーク上でも平文のまま送信されていたことが被害を拡大させました。境界防御を突破した攻撃者は、ネットワーク内でスニッフィングを行うだけで容易に情報を収集でき、同社に巨額の課徴金と信頼失墜をもたらしました。※本事例の詳細は韓国科学技術情報通信部(MSIT)の調査報告および各報道機関の公開情報を参照してください。
Orangeの事例:国家支援型攻撃によるインフラ傍受
フランス最大の通信事業者であるOrangeでも情報システムへの侵入が検知された事案が報告されています。欧米のセキュリティ機関は、国家支援型の脅威アクター(Salt Typhoonなど)による通信業界への攻撃増加を警告しており、モバイルネットワークの中枢システムに対する侵入は、特定の対象者の通信傍受(スニッフィング)を主目的としている可能性が高いと指摘されています。国家規模のサイバー戦において、スニッフィングは強力な情報収集ツールとして悪用されています。※本事例の詳細はフランスサイバーセキュリティ機関(ANSSI)等の公式発表を参照してください。
警察庁データに見るサイバー犯罪の被害コスト
警察庁が公表したサイバー空間をめぐる脅威の情勢等に関する資料によると、インターネットバンキングに係る不正送金事犯の被害が年々拡大しており、その手口の多くがフィッシングに起因しています。スニッフィングはこうしたフィッシングサイトへの誘導(DNSスプーフィングの併用)や認証情報の傍受と密接に関連しています。また、ランサムウェア被害の報告件数も高水準で推移しており、一度ネットワーク内部でスニッフィングによって管理者権限を奪われると、ランサムウェアの展開による二重脅迫へと繋がり、数千万円から億円単位の事業復旧コストを強いられます。最新の被害額や件数については、警察庁の公式発表を定期的に確認することを推奨します。
▲ SKテレコム事例に見るスニッフィング被害の発生プロセス
スニッフィング対策における「よくある誤解」と失敗パターン
境界防御モデルへの過信が、攻撃者にとって最大の好機になっている。
企業のセキュリティ現場では、スニッフィングの脅威に対する認識の甘さから、深刻な失敗を招くケースが散見されます。ここでは、実務において陥りやすい「よくある誤解」と失敗パターンを提示します。
誤解1:「社内LANだから安全である」
最も危険な失敗パターンが、「ファイアウォールの内側(社内ネットワーク)は安全だから」という理由で、内部システム間の通信を暗号化せずに平文(HTTPやTelnetなど)で行うことです。SKテレコムの事例が示すように、一度マルウェアに侵入され、内部のサーバーにパケットスニッファを仕掛けられると、社内LANを飛び交う機密情報や認証情報はすべて傍受されます。境界防御はすでに崩壊しており、内部ネットワークであっても常に監視・暗号化を行う「ゼロトラスト」の前提が必要です。
誤解2:「VPNやHTTPSを使えば絶対安全である」
VPNやHTTPSを導入しているからといって、スニッフィングの脅威を完全に排除できるわけではありません。SSLストリッピング攻撃によってHTTPSがダウングレードされるリスクがあるほか、VPN機器自体にゼロデイ脆弱性がある場合、そこを突破されて通信が解読される事件が多発しています。また、送信元や受信元の端末(エンドポイント)自体がマルウェアに感染していれば、暗号化される前のデータが画面上やメモリ上でスニッフィングされてしまいます。
スニッフィングを防ぐための具体的な対策と最新ソリューション
暗号化の徹底とトラフィックのリアルタイム監視が、スニッフィング対策の両輪になる。
高度化するスニッフィングの脅威に対抗するためには、エンドポイントの保護だけでなく、ネットワーク全体の可視化とセキュリティ対策を重層的に組み合わせる必要があります。
HSTSの実装と強力な暗号化の徹底
Webサービスを提供している企業がまず手をつけるべきは、HSTSの実装だ。SSLストリッピング攻撃は、HTTPS強制設定があるだけで大半が防げる。通信の暗号化を徹底するうえで、自社WebサイトにHSTSを設定し、ユーザーのブラウザに対して強制的にHTTPS通信を行わせるよう設定することが出発点となります。加えて、社内システムの認証においては、IDとパスワードが傍受された場合に備え、多要素認証(MFA)の導入が有効です。
NDR(Network Detection and Response)の導入
内部ネットワークに侵入された後のスニッフィングや不正通信を検知するための最新ソリューションとして、「NDR」の導入が急速に進んでいます。NDRは、ネットワーク全体のパケットやトラフィックを網羅的に監視し、AIや機械学習を活用して異常な挙動をリアルタイムで検知・対応する技術です。株式会社アイ・ティ・アール(ITR)が2023年5月に発表した「ITR Market View:情報漏洩対策市場2023」によれば、日本のNDR市場は年平均15%以上の成長を続け、2026年度には市場規模が88億円に達すると予測されており(※発表時点の予測値)、ゼロトラスト時代の中核的な防衛策として注目されています。
【実用部品】スニッフィング対策 実践チェックリスト
自社のネットワークがスニッフィングの脅威に対して適切に保護されているか、以下のチェックリストを用いて現状を確認してください。
チェック項目 | 対策の目的・詳細 |
|---|---|
☐ 常時SSL化とHSTSの実装 | 自社Webサイトの全ページをHTTPS化し、HSTSを有効にしてダウングレード攻撃を防いでいるか。 |
☐ 内部通信のエンドツーエンド暗号化 | 社内LANであっても、データベース通信やAPI連携を平文で行わず暗号化しているか。 |
☐ Wi-Fi規格の見直し | オフィスや店舗のWi-FiにWPA3(最低でもWPA2)を採用し、フリーWi-Fiの業務利用を禁止しているか。 |
☐ 多要素認証(MFA)の強制 | 万が一パスワードが傍受されてもログインできないよう、全社システムにMFAを導入しているか。 |
☐ NDR / IDS・IPSによる継続監視 | ネットワーク上の不審なパケットキャプチャの動きや、不正な横展開を検知する仕組みがあるか。 |
よくある質問
スニッフィングに関するよくある疑問を解消し、自社の対策強化に役立てましょう。
Q:スニッフィングとスプーフィングの違いは何ですか?
A:スニッフィングはネットワーク上のデータを「盗聴・傍受」する行為です。一方、スプーフィングは送信元のIPアドレスなどを偽装する「なりすまし」の行為であり、攻撃者はスプーフィングを行って通信経路を改ざんした上でスニッフィングを実行することが多くあります。
Q:スマートフォンでもスニッフィングの被害に遭いますか?
A:はい、被害に遭う危険性は十分にあります。特に、カフェや空港などで暗号化されていないフリーWi-Fiにスマートフォンを接続した場合、悪魔の双子(Evil Twin)攻撃などによって通信内容やアプリの認証情報を容易に傍受されてしまいます。
Q:sniffing(スニッフィング)とは本来どういう意味の言葉ですか?
A:英語の「sniff」は「匂いを嗅ぐ」「嗅ぎ回る」といった意味を持ちます。ITネットワークの分野においては、データ通信(パケット)を犬のように嗅ぎ回って秘密裏に情報を収集する様子から、パケット盗聴を指す専門用語として定着しました。
まとめ
本記事では、スニッフィングの基本的な仕組みから、SSLストリッピングやAIへのサイドチャネル攻撃といった高度な手口、そして国内外のインシデント事例を踏まえた実践的な対策までを解説しました。スニッフィングは目に見えない形で進行するため、「社内ネットワークだから安全」という境界防御の常識は通用しません。まずは以下のアクションリストを使い、自社の現状を点検するところから始めてください。
✅ 自社WebサイトのHSTSが有効になっているか確認する
✅ 社内のデータベース通信・API連携が平文(HTTP/Telnetなど)になっていないか棚卸しする
✅ オフィスのWi-FiがWPA3対応かを確認する
✅ 主要システムへの多要素認証(MFA)の導入状況を棚卸しする
✅ NDR等によるネットワーク継続監視の導入・検討状況を確認する
本記事の内容に誤り等がございましたら、こちらからご連絡ください。
監修
Admina Team
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