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Admina Team
2025/08/12
近年、サイバー攻撃はますます巧妙化・高度化しており、特にAPT攻撃は企業にとって最も警戒すべき脅威の一つです。APT(Advanced Persistent Threat)とは、日本語で「高度で持続的な脅威」を意味し、特定の組織を標的に、長期間にわたって執拗に攻撃を仕掛け、機密情報などを窃取することを目的としています。一度侵入を許すと、気づかないうちに甚大な被害につながる可能性があり、従来のセキュリティ対策だけでは防御が困難です。
本記事では、APT攻撃の基礎知識から最新の手口、企業が今すぐ取り組むべき包括的な対策まで、分かりやすく解説します。
APT攻撃とは
APT攻撃は、単なるウイルス感染やWebサイト改ざんとは一線を画す、計画的かつ組織的なサイバー攻撃です。ここでは、APTの基本的な定義と、攻撃の目的を明確にします。
APT(Advanced Persistent Threat)とは
APTは、「Advanced(高度な)」「Persistent(執拗な・持続的な)」「Threat(脅威)」の3つの単語から成り立っています。
Advanced:攻撃者は、OSや各種ソフトウェアの未知の脆弱性を突く「ゼロデイ攻撃」や、独自に開発したマルウェアなど、高度な技術を駆使します。
Persistent:一度標的のネットワークに侵入すると、発見されないように数ヶ月から数年単位で潜伏し続け、継続的に活動を行います。
Threat:攻撃の目的は、金銭の直接的な窃取よりも、国家機密、知的財産、個人情報といった価値の高い情報を盗み出すことにあります。
これらの特徴から、APT攻撃は極めて発見が難しく、被害が深刻化しやすい脅威であると言えます。
APT攻撃の主な目的
APT攻撃の目的は多岐にわたりますが、大きく分けると主に以下の4つに分類されます。攻撃者は、それぞれの目的に応じて高度で継続的な攻撃を仕掛けてきます。
スパイ活動(諜報活動): 政府機関や重要インフラ企業などを標的に、国家の安全保障に関わる機密情報や外交文書などを窃取します。
知的財産の窃取: 競合他社や先進技術を持つ企業から、製品の設計図、研究開発データ、営業秘密などを盗み出し、経済的・技術的優位性を得ることを狙います。
重要インフラの破壊活動: 電力、ガス、交通、金融といった社会の根幹を支える重要インフラの制御システムを攻撃し、社会的な混乱を引き起こすことを目的とします。
政治的な妨害工作: 特定の政策や国際関係に影響を与えるため、政府関係者の情報を暴露したり、偽情報を流布したりします。
APT攻撃と他のサイバー攻撃の違い
APT攻撃は、他の多くのサイバー攻撃とは明確な違いがあります。
標的の明確性
ランサムウェアやフィッシング詐欺の多くが、不特定多数の個人や企業を無差別に狙う「ばらまき型」であるのに対し、APT攻撃は特定の組織や個人を狙い撃ちにする「標的型」です。攻撃者は、標的の業種、業務内容、組織構造、使用しているシステム、さらには従業員の役職や人間関係まで徹底的に調査し、最も効果的な攻撃計画を立案します。そのため、攻撃の成功率が非常に高いのが特徴です。
潜伏期間の長さ
多くのサイバー攻撃が、侵入後すぐに目的(金銭要求やデータ破壊など)を達成しようとする一過性のものであるのに対し、APT攻撃は長期間にわたる潜伏を前提としています。侵入後も目立った活動はせず、正規の通信に紛れて少しずつ内部調査を進め、時間をかけて権限を昇格させていきます。最終的に目的の情報にたどり着くまで、静かに、そして執拗に活動を続けるのです。
APT攻撃で用いられる巧妙な手口
攻撃者は常に新しい技術を取り入れ、その手口を巧妙化させています。ここでは、近年特に注意すべき代表的な攻撃手法を解説します。
標的型メール
標的型メールは、依然としてAPT攻撃の最も主要な攻撃手法です。業務に関係する内容や、取引先、同僚になりすました巧妙な件名・本文で受信者を騙し、悪意のあるファイルを開かせたり、不正なURLへアクセスさせたりします。近年では、AIを活用して極めて自然な日本語の文章を生成するケースも増えており、人間が偽物だと見破ることはますます困難になっています。
水飲み場攻撃
水飲み場攻撃とは、標的組織の従業員が頻繁にアクセスするWebサイト(ニュースサイト、業界団体のページ、関連企業サイトなど)を事前に改ざんしておき、標的がそのサイトを訪れた際にマルウェアに感染させる手法です。ライオンがオアシス(水飲み場)で獲物を待ち伏せする様子に似ていることから、この名が付けられました。標的自身が信頼しているサイトから攻撃されるため、警戒心を抱きにくいのが特徴です。
サプライチェーン攻撃
自社のセキュリティが強固でも、取引先や子会社、業務で利用しているソフトウェアの開発元など、セキュリティ対策が比較的脆弱な関連企業を踏み台にして、最終的な標的企業への侵入を試みる攻撃です。近年、企業のIT環境は多くの外部サービスや製品に依存しているため、このサプライチェーンの弱点を突く攻撃が急増しています。信頼している取引先からの連絡やソフトウェアアップデートを装うため、防御が非常に難しい攻撃手法です。
AI(人工知能)の悪用
2025年現在、生成AIなどのAI技術を悪用したAPT攻撃が新たな脅威となっています。例えば、標的のSNS投稿や過去のメール文面をAIに学習させ、その人物の文体を完全に模倣した標的型メールを作成することが可能です。また、AIを用いて脆弱性の発見やマルウェアの開発を自動化し、より迅速かつ大規模な攻撃を仕掛けてくる可能性も指摘されています。

企業が取るべきAPT攻撃への対策
高度化するAPT攻撃から組織を守るためには、単一の製品や技術に頼るのではなく、「多層防御」の考え方に基づいた包括的な対策が不可欠です。
侵入を未然に防ぐ
まずは、攻撃の最初の入口となる部分を固めることが重要です。
最新の脅威に対応したセキュリティ製品の導入: EDR(Endpoint Detection and Response)やNDR(Network Detection and Response)など、不審な振る舞いを検知・対処できる製品を導入し、マルウェアの侵入や活動を早期に発見します。
全従業員へのセキュリティ教育: 標的型メールの見分け方や、不審なファイルを開かない、安易にURLをクリックしないといった基本的なリテラシーを、訓練を通じて全従業員に徹底させます。
脆弱性管理の徹底: OSやソフトウェアの脆弱性は、攻撃者にとって格好の侵入口です。パッチ管理を徹底し、常に最新の状態を維持することが不可欠です。
侵入後の被害拡大を防ぐ
万が一侵入を許してしまった場合に備え、被害を最小限に食い止めるための内部対策を講じます。
アクセス制御と権限の最小化: 従業員には、業務上必要最小限のアクセス権限のみを付与します。アクセス制御と権限の最小化することで、万が一アカウントが乗っ取られても、攻撃者がアクセスできる範囲を限定できます。
ネットワークのセグメンテーション: 社内ネットワークを部署やサーバの役割ごとに細かく分割(セグメント化)します。ネットワークをセグメント化することで、あるセグメントが侵害されても、他のセグメントへの被害拡大を防ぐことができます。
通信の監視とログ分析: ネットワーク内部の通信を常時監視し、不審な挙動がないか分析します。平常時の通信パターンを把握し、異常を即座に検知できる体制を構築することが重要です。
情報の外部流出を防ぐ
攻撃者が盗み出した情報を外部に送信しようとする動きを、最後の砦でブロックします。
Webフィルタリングとプロキシサーバの活用: 悪意のあるC2サーバ(攻撃者がマルウェアに指令を送るサーバ)への通信を遮断します。許可された宛先以外への通信をブロックすることで、情報漏洩のリスクを低減できます。
DLP(Data Loss Prevention)の導入: 機密情報に特定のタグを付け、その情報が外部に送信されようとした際にアラートを発したり、通信をブロックしたりする仕組みです。
CSIRTの構築とインシデント対応計画
攻撃を100%防ぐことが困難である以上、インシデント(セキュリティ事故)が発生することを前提とした体制づくりが極めて重要です。インシデント発生時に迅速かつ的確な対応を行うため、組織内に「CSIRT(Computer Security Incident Response Team)」という専門チームを設置し、発見から復旧までの一連の流れを定めた「インシデント対応計画」を策定・訓練しておく必要があります。
まとめ
本記事では、APT攻撃の基本から最新の手口、そして企業が取るべき具体的な対策までを網羅的に解説しました。APT攻撃は、大企業や政府機関だけを狙うものではありません。サプライチェーンの一員として、あらゆる企業が標的となり得る「自分ごと」として対象すべき脅威です。
技術的な対策はもちろん重要ですが、それ以上に「インシデントは起こり得る」という前提に立ち、従業員一人ひとりのセキュリティ意識の向上、そしてインシデント発生時に迅速に行動できる組織的な体制を構築することが、見えない脅威から企業を守るための最も本質的な対策と言えるでしょう。この機会に、自社のセキュリティ対策を改めて見直し、より強固な防御体制を築いてください。

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