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最終更新日
2025/11/11
RaaS(Ransomware as a Service)とは、ランサムウェアをサービスとして提供するビジネスモデルであり、高度な技術を持たない攻撃者でも容易に攻撃を実行できる環境を生み出しました。結果として、攻撃の件数は爆発的に増加し、企業規模や業種を問わず、あらゆる組織が標的となっています。
本記事では、情報システム部門の担当者が把握しておくべきRaaSの全体像、その巧妙な仕組み、そして企業を壊滅的な被害から守るための具体的な対策を詳しく解説します。
RaaS(Ransomware as a Service)とは
RaaSとは、Ransomware as a Service の略称で、ランサムウェア攻撃用のツールやインフラを、サービスとして提供するビジネスモデルを指します。開発者が作成した攻撃用キットを、攻撃実行者であるアフィリエイト(RaaS利用者)が利用し、得られた身代金の一部を開発者に支払う仕組みです。RaaSの登場により、サイバー攻撃の分業化が進み、専門知識がない人物でも大規模な攻撃を仕掛けられるようになりました。
従来のランサムウェア攻撃との違い
従来の攻撃では、攻撃者がマルウェアの開発からネットワークへの侵入、攻撃の実行までを一貫して行っていました。一方、RaaSの登場により、開発者と実行者が完全に分離したことで、開発者はより高性能なマルウェア開発に専念し、実行者はより多くの標的を狙うことに特化できます。結果として、攻撃の質と量の両方が飛躍的に向上し、防御側にとってさらに手強い脅威となっています。
RaaSが急速に拡大している背景
RaaSが拡大する最大の要因は、攻撃のハードルが劇的に下がった点にあります。アフィリエイトはダークウェブなどでRaaSキットを容易に入手でき、標的の選定や侵入といった攻撃活動に集中でき、開発者は直接攻撃に関与せずツール提供に徹することで、摘発のリスクを分散できます。RaaS利用による分業体制と成功報酬型のモデルが、攻撃者の増加を加速させているのです。
ダークウェブで形成されるRaaSのビジネスモデル
RaaSは単なるマルウェアではなく、ダークウェブ上に形成されたエコシステムとして機能しています。攻撃をビジネスとして捉え、収益性を高めるための仕組みが構築されています。
開発者とアフィリエイトの分業体制
RaaSエコシステムの中核を成すのが、開発者とアフィリエイトの分業です。開発者はランサムウェア本体、身代金交渉サイト、管理パネルといった攻撃インフラを構築・維持します。一方、アフィリエイトは、提供されたツールを用いて標的ネットワークへの侵入、感染拡大、ランサムウェアの展開を担当します。この役割分担が、攻撃の効率性と規模を最大化させています。
ダークウェブで取引されるRaaSキット
RaaSキットは、主にダークウェブ上のフォーラムやマーケットプレイスで取引されており、提供形態は多様で、月額課金制、買い切り型、そして最も一般的な成功報酬型などがあります。募集要項では、アフィリエイトの技術レベルや過去の実績が問われることもあり、一般的な業務委託のような形態で募集が行われるケースも見られます。
収益分配の仕組み
成功報酬型モデルでは、アフィリエイトが獲得した身代金のうち、70%から80%がアフィリエイトの取り分となり、残りが開発者に支払われるのが一般的です。高い報酬率が、腕利きのハッカーをアフィリエイトとして惹きつける強力な動機として機能しており、収益性の高さが、RaaSの経済圏の拡大を支える原動力となっているのです。
RaaSが企業にもたらす深刻な脅威
RaaSによる攻撃は、単にデータが暗号化されるだけにとどまりません。事業活動そのものを停止させ、企業の社会的信用を失墜させる複合的な脅威を内包しています。
事業停止に追い込まれるリスク
ランサムウェアに感染すると、サーバーやクライアントPC内のファイルが暗号化され、基幹システムや業務システムが利用不能に陥り、生産ラインの停止、受注・出荷業務の麻痺、顧客対応の遅延など、事業活動の根幹が揺るがされます。復旧までの期間が長引けば、その分だけ損失は拡大し、企業の存続自体が危ぶまれる事態も起こり得ます。
悪質化する二重・三重の脅迫手口
近年のRaaS攻撃では、二重恐喝が主流です。これは、データを暗号化するだけでなく、事前に窃取した機密情報を公開すると脅迫し、身代金の支払いを強要する手口です。さらに、盗んだ情報を元に顧客や取引先を直接脅す三重恐喝や、ウェブサイトへのDDoS攻撃を仕掛ける四重恐喝など、手口は悪質化・多様化の一途をたどっています。
企業が実践すべきRaaS対策
巧妙化するRaaSの脅威に対抗するためには、単一の解決策に頼るのではなく、技術的、組織的、そして教育的な観点から多層的な防御策を講じる必要があります。
1. 侵入を阻止する防御策
攻撃の侵入経路を断つことが最も効果的な対策の一つです。VPN機器やリモートデスクトップ(RDP)の脆弱性管理、多要素認証(MFA)の導入は必須です。また、不正なメールや添付ファイルからの感染を防ぐため、最新の脅威に対応したメールセキュリティや、サンドボックス機能を持つゲートウェイ製品の導入が有効です。
2. 侵入を前提とした検知と対応
万が一の侵入を想定し、迅速な検知と対応を実現する体制を構築します。セキュリティ監視を行うSOC(Security Operation Center)の設置や外部サービスの活用、インシデント発生時の報告ルートや役割分担を定めたCSIRT(Computer Security Incident Response Team)の整備が求められます。定期的なインシデント対応訓練も欠かせません。
3. 従業員のセキュリティ意識向上
多くの攻撃は、従業員へのフィッシングメールなどを起点とします。不審なメールやURLを開かない、安易にパスワードを使い回さないといった基本的なリテラシーを、全従業員が身につける必要があります。標的型攻撃メール訓練などを通じて、従業員一人ひとりの意識と対応能力を高める継続的な教育が不可欠です。
RaaS対策ソリューションの選定ポイント
多層防御を実現するためには、適切なセキュリティソリューションの選定が欠かせません。ここでは、RaaS対策の要となる3つの分野に焦点を当て、ソリューション選定時に考慮すべき点を示します。
EDR/XDRによるエンドポイント監視
従来のアンチウイルスソフト(EPP)だけでは、未知のマルウェアや巧妙な攻撃手法を検知することは困難です。PCやサーバー(エンドポイント)の挙動を常時監視し、不審な活動を検知・分析するEDR(Endpoint Detection and Response)の導入が標準的な対策となっています。さらに、ネットワークやクラウド環境まで監視対象を広げたXDR(Extended Detection and Response)も注目されています。
バックアップと復旧計画の見直し
事業継続性の観点から、バックアップの重要性は言うまでもありませんが、RaaSはバックアップデータも標的にするため、ネットワークから隔離された場所に保管する「オフラインバックアップ」や、書き換え不可能な「イミュータブルバックアップ」の仕組みを取り入れることが必要です。また、定期的に復旧テストを実施し、有事の際に確実にデータを復元できることを確認しておくべきです。
脅威インテリジェンスの活用
脅威インテリジェンスとは、サイバー攻撃に関する情報を収集・分析し、対策に役立てる活動です。最新の攻撃グループの手口や脆弱性情報を早期に入手し、自社の防御策に反映させることで、プロアクティブなセキュリティ対策が可能になります。専門のサービスを活用することで、効率的に脅威情報を収集し、自社のセキュリティ態勢を強化できます。
まとめ
RaaSは単なる技術的な問題ではなく、サイバー攻撃をビジネスとして成立させるエコシステムに支えられた組織的な脅威です。攻撃者は経済的なインセンティブに基づき、常に防御の穴を探し、より巧妙な手口を開発し続けています。
本記事で示した対策を参考に、自社のセキュリティ態勢を今一度見直し、変化し続ける脅威に対応できる、しなやかで強固な組織を構築してください。
本記事の内容に誤り等がございましたら、こちらからご連絡ください。
監修
Admina Team
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