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最終更新日
2025/12/08
NGAV(次世代アンチウイルス)とは、巧妙化・多様化する現代のサイバー攻撃からPCやサーバーなどのエンドポイントを守るための、新しいセキュリティ技術です。従来のウイルス対策ソフトが苦手としていた未知のマルウェアやファイルレス攻撃にも対応できるのが大きな特徴です。
本記事では、NGAVの基本的な仕組みから、従来型アンチウイルスやEDRとの違い、導入のメリット、そして自社に最適な製品の選び方まで解説します。セキュリティ対策の見直しを検討している方は、ぜひご一読ください。
NGAV(次世代アンチウイルス)とは
NGAV(Next Generation Antivirus)とは、AI(人工知能)や機械学習、振る舞い検知といった先進技術を用いて、未知の脅威や高度なサイバー攻撃を未然に防ぐことを目的としたエンドポイントセキュリティ製品です。
従来型のアンチウイルスソフトは、既知のウイルスの特徴をまとめた「シグネチャ(定義ファイル)」に基づいて動作していました。しかし、毎日数万〜数十万もの新種マルウェアが登場する現代では、シグネチャの作成と配布が追いつかず、未知の脅威(ゼロデイ攻撃)を防ぎきれないケースが増加しました。この課題を解決するために、攻撃の「振る舞い」や「特徴」から悪意を判断するNGAVが登場したのです。
NGAVは、PC、サーバー、スマートフォンなどの末端機器(エンドポイント)の保護に特化した、EPP(Endpoint Protection Platform)の中核的な機能と位置づけられています。単にファイルがマルウェアかどうかを判断するだけでなく、プログラムの挙動や通信内容などをリアルタイムで監視し、攻撃の兆候を検知した時点で実行を阻止します。攻撃の「振る舞い」や「特徴」から悪意を判断することにより、従来の対策ではすり抜けてしまっていたランサムウェアや、ファイルを作成せずにメモリ上だけで活動するファイルレスマルウェアなど、より高度な脅威への対抗策として不可欠な存在となっています。
NGAVと従来型アンチウイルス(AV)の違い
NGAVと従来型アンチウイルス(AV)の大きな違いは、脅威を検知する「検知方法」と、それによって防御できる「脅威の範囲」にあります。
検知方法の違い
従来型アンチウイルス(AV)は主に「シグネチャ方式(パターンマッチング)」に依存していますが、NGAVは「振る舞い検知」や「機械学習」など複数の検知技術を組み合わせています。
従来型AV
過去に発見されたマルウェアの指名手配書のようなデータ(シグネチャ)とファイルを照合し、一致した場合に脅威と判断します。既知の脅威には強い一方、リストにない新種や亜種のマルウェアには対応できません。NGAV
ファイルやプロセスの怪しい動きに着目します。例えば、「重要なシステムファイルを暗号化しようとしている」「外部の不審なサーバーと通信しようとしている」といった振る舞いを検知してブロックします。AIが正常な状態を学習し、それと異なる異常な振る舞いを検知するため、未知の脅威にも対応が可能です。
防御できる脅威の範囲の違い
検知方法の違いにより、防御できる脅威の範囲にも明確な差が生まれます。NGAVは、従来型アンチウイルス(AV)では防ぐことが難しかった高度な攻撃への防御を得意とします。
ゼロデイ攻撃
脆弱性が発見されてから修正パッチが提供されるまでの期間を狙った攻撃。シグネチャが存在しないため従来型アンチウイルス(AV)では防げませんが、NGAVは異常な振る舞いを検知して防御できます。ファイルレスマルウェア
正規のツール(WindowsのPowerShellなど)を悪用し、ディスクにファイルを残さずにメモリ上だけで活動する攻撃。ファイルスキャンが基本の従来型アンチウイルス(AV)では検知が困難ですが、NGAVはプロセスの振る舞いを監視して検知・阻止します。ランサムウェア
ファイルを不正に暗号化し、復号のために身代金を要求するマルウェア。NGAVは、ファイルを次々と暗号化していく特有の「振る舞い」を検知してプロセスを停止させ、被害を最小限に抑えます。
NGAVが脅威を検知・防御する仕組み
NGAVは、単一の技術に頼るのではなく、複数の高度な技術を組み合わせることで、多角的に脅威を検知・防御する仕組みを持っています。
機械学習(AI)による予測検知
NGAVの中核をなすのが、機械学習(Machine Learning)やAI(人工知能)を活用した予測検知技術です。
これは、世界中から収集した膨大な数の正常なファイルとマルウェアのデータをAIに学習させることで、ファイルが持つ特徴から「マルウェアらしさ」を静的に分析・判定する技術です。ファイルが実行される前に、その構造やコードの断片、メタデータなど数百〜数千万もの特徴を分析し、マルウェアである確率をスコア化します。これにより、シグネチャが存在しない新種のマルウェアであっても、実行される前に脅威であると予測し、隔離や削除を行うことが可能です。
振る舞い検知
振る舞い検知は、プログラムが実行されている最中の「動的な挙動」を監視し、悪意のある振る舞いを検知する技術です。
ファイル自体が正常に見えても、その後の動作が悪意のあるものであればブロックします。
短時間で大量のファイルを暗号化する(ランサムウェアの疑い)
OSの重要な設定を変更しようとする
他のプロセスに不正なコードを注入しようとする(コードインジェクション)
外部のC2サーバー(攻撃者が指令を出すサーバー)と通信を開始する
こうした一連の動作を監視し、攻撃シナリオに合致する不審な動きを検知した時点で、プロセスを強制終了させたり、ネットワークから隔離したりします。
ファイルレスマルウェアへの対応
従来の攻撃がファイルを起点としていたのに対し、近年はOSに標準搭載されている正規ツール(PowerShellやWMIなど)を悪用し、悪意のあるコードをメモリ上で直接実行するファイルレスマルウェアが増加しています。NGAVは、こうした正規プロセスの挙動も常時監視しており、コマンドラインの引数や実行内容を分析することで、たとえ正規のツールが悪用された場合でも、その異常な振る舞いを検知して攻撃を阻止することができます。
NGAVとEDR・XDRの関係性
NGAVは単体で完結するものではなく、EDRやXDRといった他のセキュリティソリューションと連携することで、より強固な防御体制を築きます。
NGAVとの役割分担
EDR(Endpoint Detection and Response)は、侵入を100%防ぐことは難しいという前提に基づき、侵入後の脅威を素早く発見して対処することに特化したソリューションです。
NGAV
侵入前・侵入時の防御(事前防御)が主な役割。門番のように、脅威がエンドポイントに侵入し、活動を開始するのを防ぎます。EDR
侵入後の検知と対応(事後対応)が主な役割。万が一、NGAVをすり抜けて侵入した脅威がいた場合に、その活動を検知・可視化し、影響範囲の特定や封じ込め、原因調査を支援します。
NGAVが防御に重点を置くのに対し、EDRは検知と対応に重点を置いています。両者は対立するものではなく、組み合わせることで多層的な防御を実現する補完関係にあります。
XDRとの連携
XDRは、EDRの枠組みをより広範に拡張したセキュリティアプローチです。EDRがエンドポイントからの情報のみを監視対象とするのに対し、XDRはエンドポイントに加えて、ネットワーク、サーバー、クラウド、メールなど、組織内の複数のセキュリティレイヤーからログ情報を収集・相関分析します。これにより、単独の製品では見逃してしまうような高度な攻撃の全体像を把握でき、より素早く正確な対処が行えるようになります。このXDRの仕組みにおいても、エンドポイントの情報を収集する重要なセンサーとしてNGAV/EDRが機能します。
NGAVを導入するメリット
NGAVを導入する主なメリットは、以下の通りです。
メリット1. 未知の脅威(ゼロデイ攻撃)への対応力
最大のメリットは、シグネチャに依存しないため、まだ世の中に知られていない未知のマルウェアやゼロデイ攻撃に対しても高い防御性能を発揮できる点です。振る舞いや特徴から悪意を判断するため、日々生まれる新しい脅威から組織を保護します。
メリット2. 運用負荷の軽減
従来型アンチウイルスで大きな負担となっていた、日々のシグネチャファイル(定義ファイル)の更新・適用管理が基本的に不要になります。これにより、情報システム部門の管理工数が大幅に削減され、より戦略的な業務にリソースを集中させることができます。
メリット3. 多様なエンドポイントの保護
クラウドベースで管理される製品が多く、社内だけでなくテレワーク環境にあるPCや、社外のサーバーなど、場所を問わず一元的にエンドポイントの状態を管理・保護することが可能です。軽量なエージェントで動作する製品が多いため、PCのパフォーマンスへの影響が少ない点も利点です。
NGAVを導入するデメリット・注意点
NGAV導入の注意点は、正常なプログラムを脅威と誤判定してしまう「過検知(False Positive)」の可能性があることです。過検知を防ぐには、導入初期のチューニング(例外設定)が重要になります。
過検知は、業務で利用する自社開発ツールや特定のソフトウェアの動作を、その振る舞いから「悪意があるかもしれない」とNGAVが誤って判断し、ブロックしてしまう現象です。そのため、導入初期には自社の環境に合わせて検知ルールを調整するチューニング作業が必要になる場合があります。このチューニングにはある程度の専門知識が求められるため、導入後のサポート体制が充実したベンダーや販売代理店を選ぶことが重要です。
自社に合ったNGAV製品を選ぶポイント
市場には多くのNGAV製品が存在するため、自社の環境や目的に合ったものを選ぶことが成功の鍵となります。以下のステップで検討を進めることをお勧めします。
1. 保護対象の範囲
まず、保護したいエンドポイントの種類と数を明確にします。Windows PCだけでなく、macOS、Linuxサーバー、さらには仮想デスクトップ(VDI)環境など、自社のIT環境を洗い出し、それらのOSや環境に対応しているかを確認します。
2. 検知・防御性能
製品のコアとなる検知・防御性能を評価します。第三者評価機関(NSS Labs, AV-Comparatives, MITRE ATT&CK Evaluationなど)のテスト結果を参考にしたり、実際にPoC(Proof of Concept:概念実証)を実施して、自社の環境で想定される脅威をブロックできるかテストしたりすることが有効です。特に、ランサムウェアやファイルレス攻撃に対する防御能力は重要な評価ポイントです。
3. 既存製品との連携
すでに導入している他のセキュリティ製品(ファイアウォール、EDR、SIEMなど)との連携が可能かを確認します。API連携などによって各製品が持つ情報を共有できれば、より高度で自動化されたセキュリティ運用が実現できます。特にEDR機能が一体となっている製品を選ぶか、既存のEDRとスムーズに連携できる製品を選ぶかは重要な選択肢となります。
4. 運用・サポート体制
導入後の運用を見据え、管理コンソールの使いやすさや、レポート機能の充実度を確認します。また、前述の過検知への対応や、インシデント発生時の問い合わせなど、ベンダーや販売代理店のサポート体制が手厚いかどうかも必ず確認しましょう。日本語でのサポートが24時間365日受けられるかなども重要なポイントです。
まとめ
本記事では、NGAV(次世代アンチウイルス)の基本的な概念から、その仕組み、従来型アンチウイルス(AV)やEDRとの違い、そして選び方のポイントまでを網羅的に解説しました。
サイバー攻撃の手法が日々進化する現代において、シグネチャベースの対策だけでは企業の情報資産を守りきることは困難です。NGAVは、AIや振る舞い検知といった先進技術で未知の脅威に対抗し、エンドポイントセキュリティを新たな次元へと引き上げます。自社のセキュリティレベルをもう一段階高めるために、NGAVの導入を具体的に検討してみてはいかがでしょうか。
本記事の内容に誤り等がございましたら、こちらからご連絡ください。
監修
Admina Team
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